約 301,168 件
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/1700.html
https://w.atwiki.jp/c-atelier/pages/3178.html
実際に読む(リンク) Recipe155 シリーズ:星の行方 前話星の行方 第二話 次話星の行方 第四話 概要 レシピ追加 無 登場キャラ 登場 レッド シーナ ジル モランス ツーデル ノル ラブ リア サダコ 元ネタ解説 無 Recipe155 サダコ シーナ ジル ツーデル ノル モランス ラブ リア レッド 作品 星の行方シリーズ
https://w.atwiki.jp/crossnovel/pages/96.html
第三話 殺人鬼ビリー・キンケイド 「錬子ちゃん……、どこにいるんだろ……」 初春は友人である御坂、佐天、御坂の後輩である風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子と共にいきつけのカフェで出されたパフェを食欲がなさそうに食べていた。もう三日も錬子が行方不明なのだ。初春は行方不明になってしまったのは自分の責任であると感じ、自責の念からか夜も眠れていないのだ。 「初春さん、そうやって目の下に隈をつけていてもあの子は見つかりませんのよ?」 白井黒子が落ち着いた様子でコーヒーを啜っている。 「あー確かに初春、目の下の隈が凄いよ……?」 佐天が初春を心配そうに気遣う。 「でもさー、これだけ捜してもいないっていうことは何らかの事件に巻き込まれてるよねどう見ても」 「そ、それじゃやっぱり誘拐……!?わ、私があの時一緒にアイスを買いに行ってあげれば……!」 初春は御坂の言葉にかなり動揺したようだ。 「ちょ、ちょっと御坂さん……!」 佐天は無神経な御坂の言葉に 「ですがお姉さま、身代金目当ての誘拐にしても、置き去り(チャイルドエラー)の子供を誘拐した所で一銭の得にもなりませんわよ?それに学園都市にとって置き去り(チャイルドエラー)一人の命なんてどうでもいいのではなくて?」 確かに以前に御坂は幻想御手(レベルアッパー)事件の際に事件の首謀者である木山春生の過去を垣間見た。あの子供の命さえ軽く捨てれるであろう学園都市が今更置き去り(チャイルドエラー)一人の命など気にかけてくれようはずもない。 その時、黒子の携帯の着信音が鳴った。 「あら、固法先輩からですわね」 電話は同じ第177支部に所属している風紀委員(ジャッジメント)である固法美偉からの連絡であった。 「あ、白井さん!三日前に行方不明になっていたあすなろ園の霧原錬子ちゃんが見つかったそうよ!!」 「え!?本当でございますの!?」 「お、落ち着いて聞いてね……!錬子ちゃんは……、遺体で発見されたそうよ……」 ◇ 固法からの連絡で四人は無我夢中で錬子の遺体のあった現場に駆けつけた。 霧原錬子は第七地区の鉄橋の下の川原で発見されていた。 現場の周りには大勢のアンチスキルが遺体の処理と、野次馬をどかせるのに一苦労していた。 「あ!黄泉川先生!霧原錬子ちゃんの遺体はどこですか!!」 初春はアンチスキルの一人である黄泉川に鬼気迫る勢いで聞いた。 「あ、お前達は……。み、見ないほうがいいと思うじゃん。さっき鉄装が見たんだが……、川の所で吐きまくってるぞ」 黄泉川はきまずい顔で初春を含む四人に言う。 霧原錬子の遺体は無惨という一言であった。 身に着けている服を全て剥ぎ取られ、手足の指を全て切断され、口の中の歯は残らずペンチで引き抜かれ、全身には鞭で叩かれたような傷があり、しかもあろうことか傷口にはタバコが押し当てられていた。しかも強姦された痕跡も残っていた。死因は窒息死である。首に凄まじい怪力で締め上げられた後が残っていた。 「う……、そ……?れ、錬子ちゃん……?」 初春は苦痛に歪んだ表情の霧原錬子の遺体を見て呆然と立ち竦んでいた。 「……るせない」 「お、お姉さま?」 「絶対許せない!!!」 「きゃ!?」 御坂は怒りのあまり全身から電気をスパークさせた。 「黒子、あんたも手伝うよね……?」 「な、なにをですの?」 「決まってんでしょ……、犯人を見つけんのよ。あたし達だけでね……」 黒子は初めて見る御坂の本気の怒りに恐怖を感じていた。 御坂の目は怒りの雷が炎となって燃え上がっていた。 ◇ 次の日、四人のいきつけのカフェに来たのは御坂、黒子、佐天だけだった。 初春は学校を休んだようだ。立ち直るまでには時間が必要なようだ。 三人は出された紅茶やパフェを黙々と食している。 「あの……」 静寂を打ち破るかのように佐天が口を開いた。 「あの……、もしかしたら昨日のことについて何か関係があるのかもしれないんだけど……」 「お!教えて!!」 佐天の言葉に御坂が勢いよく飛びつく。 「もぅ……、お姉さまったら……」 佐天は二日前にスポーンに助けられたことを御坂と黒子に話した。 「その赤マントの大男が今回の事件と関係あるわけ?」 御坂は勘ぐるように言う。 「ですが、錬子ちゃんが失踪して殺された時期と、赤マントのコスプレ大男さんが現れた時期は一致していますね」 「ってーことは赤マントが錬子ちゃんを殺した!?」 「あの……、御坂さん、白井さん、あの人は悪い人じゃないと思いますよ……。たしかに見た目は少し怖そうだったけど…… そんな殺人なんかする人じゃ……」 佐天が興奮する御坂をなだめるように言う。 「そんなのわかんないよ!とにかくその赤マントの大男に会ってみればわかることじゃん!!」 ◇ 「で、俺に聞きたいことはそれか?」 スポーンは佐天が連れてきた御坂と黒子を眺めながら言う。 (うわー……、実際見てみるとどこのヒーローコスプレマニアの親父って感じね。ヒーローごっこでもしてんの?) (お姉さま、聞こえますわよ) 御坂はスポーンの姿を見るとさすがにその派手な衣装と、大きな体躯には驚かされていた。 「知らん。俺もここに飛ばされてきた身だ。大体そんな仕事は警察の仕事じゃないのか?まさかその年で捜査権でも持っているのか?」 「この学園都市に警察機関に該当する組織は風紀委員(ジャッジメント)とアンチスキルよ。黒子は風紀委員(ジャッジメント)だけどあたしは部外者ってとこね。でも友達を悲しませた奴を許せないのよ。まさかああいう仕打ちが出来る人間がこの世にいるなんてね」 御坂の射抜くような視線にスポーンは少し感心した。自分に臆することなく意見を言ってくる子供は久しぶりだからだ 「そうか……、それだけの覚悟があるなら必ず犯人は挙げられるだろう」 「ねえ、あんたはどっから来たの?自分は知らないって言うからにはちゃんとした証拠はあるの?」 その時黒子の携帯が鳴った。風紀委員(ジャッジメント)の固法からだ。 「はい、どうしましたの固法先輩」 「聞いて!監視カメラの映像に錬子ちゃんを乗せるアイスクリーム屋のトラックが映ってたの!」 固法の言葉に黒子は驚いた。 「ほ!本当ですの!?」 「驚くのはこれだけじゃないわよ。錬子ちゃんを乗せたアイスクリーム屋の男、彼は以前アメリカで二十七人の子供を殺した 児童連続殺人鬼のビリー・キンケイドよ! 彼は警察に捕まって裁判を受け、六年間精神病院に入っていたの。それから出所 して、また一人の児童を殺した後、何者かに殺されているの。彼は死んでいるはずなのにこの男の顔は間違いなくキンケイド だわ!」 「なんですって!?」 黒子は固法の言葉に耳を疑った。しかしそれ以上に携帯電話から聞こえた固法の言葉に驚愕したのはスポーンだった。 (バカな……、奴はラットシティで完全に死んだはずだ……。まさかまた蘇ったのか……?どちらにしろ今度こそ完全に決着を付けてやる……!)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/503.html
あれから三日が過ぎた。 その間で、こなたは少し優しくなった。私を一生懸命励まそうとしてくれるのが見ていても分かった。 こなたは人に積極的に優しくするのには慣れていないのだろう。 照れ隠しに私をいじってくることもしばしばだ。 そんな彼女をいじらしく感じた。 いとおしい。 とても。 そんなこなたのおかげで私は安らぎを得ることができた。 私はこなたと一緒にいれて幸せだ。 …まあ、こんな気持ちは到底面には出せないけどね。 『ふぁん☆すた』 第三話 「いやあ~、すっかり春だねえ~」 窓の前に立ってこなたが言う。 それに応えてベッドの脚の部分に腰かけながら私は言った。 「そうね。まあすぐに大学の入学式があるからうかうかもしてられないわね。…もちろんそれまでに退院できたらの話だけど。」 我ながらちょっとネガティブな発言。 「だ、大丈夫だよ。特に異常はないみたいだしあと2,3日ってところだって!」 こいつは私が落ち込みそうになると必死に励ましてくれる。 ―近頃ちょっと内面を出し過ぎかな… こいつといると、弱気な自分を隠せない。甘えだとは分かっている。 ―気を遣わせすぎかな…。ちょっと気をつけなきゃ。 それでもこいつに励まされると本当に元気になる。 こんなに私を元気付けてくれたのはこいつが初めてだ。 だから私はとびきりの笑顔で慣れないことを言う。 「そ、そうね。そうよね…。…あー、なんだその…、あ、ありがとね!こなた。」 「おやおやかがみん、顔が赤いよ~?」 じ、自分だって赤いくせにこいつは…。 まあこいつなりの照れ隠しだとは分かってるけど…。 ふと私は窓の外に目をやる。 何にも遮られていない、横長の四角形。 そこから見える景色はさながらパノラマのようだ。 ―…? 一瞬何か違和感を感じる。 しかしその違和感はすぐに暖かい空気に溶け、後には春特有の気だるさとどうでもよさのみが残った。 「春と言えば…」 いきなりこなたが喋り出す。 「かがみには春は来ないのかね~。」 ―こいつ、人の気も知らないで…。 「う、うるさいわよ。あんたはどうなのよあんたは。」 動揺を隠して聞き返す。 ―ま、まさか彼氏持ちじゃないだろうな…。でもそれなら毎日ここに来るはずないわよね。 いやでも… 「私は今この状況が一番楽しいからいいのだよ!」 ―!! 無い胸を張って自信満々にこなたが言う。このセリフは卑怯だ。何も言い返せないじゃない。 つまり、私もこなたにとって特別、と考えていいのかしら…。私のこなたに抱いてる“特別”な感情とはまた違うかもしれないけど…。 「今日はデレデレ日和ですなあ~。」 ニヤニヤ顔のこなたは窓辺から離れて私のベッドに腰かけた。 「う、うるさい!そんな妙な天気あるか!」 「おお…ナイスツッコミ。…ふあ~あ…」 「なによ。随分眠たそうじゃない。また徹夜でゲームか?」 「失礼な…。私=徹ゲーですか…。といってもその通りなんだけどね。ちょっと寝させてもらおうかね。」 そう言ってこなたはベッドに横になる。 ―スリッパまで脱いで寝る気満々じゃないの…。 一応私のベッドだぞ。 ああ、けど今思いっきりこのベッドに飛び込んだら気持ちいいだろうなあ…。 刹那、また違和感。 ―いやいやいや、今飛び込んだらこなたを下敷きにしちゃうじゃないの。 気持ちいいどころか痛いだろ。別の気持ちよさはまああるかもしれんが…。 って何を考えてるんだ私は… 自分で自分にツッコミをいれる。 こんな器用な芸当ができるのなら私は一人でいても退屈しないのかもしれない。 その時… コンコンコン… 扉がノックされる。 「はーい、どうぞー!」 ガチャリ。 入ってきたのは、つかさだった。 「おはよ~お姉ちゃん。」 「よ。つかさ。」 「調子はどう?変なところはない?」 「大丈夫よ。もとから傷はなかったんだし。」 「そっか。よかった~。……記憶のほうは?」 「ああ、そっちも多分大丈夫よ。心配いらないわ。」 ―こなたが傍にいてくれるから。 私の口調から本当に大丈夫そうだということを感じ取ったのだろう。 「そうなんだ!ホントによかったよ~!」 まったく、この子は…。顔と感情が直結してるのか、心底ほっとしたような表情で笑った。 「ふふ、心配かけたわね。」 そうだ。つかさにはまだこなたを紹介してなかった。 ベッドに寝転がって寝息を立てているこいつはすでに風景に埋没していて、危うく忘れるところだった。 「ちょうどいい機会だから紹介しとくわ。こいつ、泉こなた。…こら、起きろ。」 「え、えっと、お姉ちゃん?」 つかさは訳が分からない、という風に戸惑っている。 当たり前だ。紹介された相手はスースーと気持ちよさそうに寝ているのだ。…私のベッドの上で。 「ほら、起きろって。お~い。」 「むにゃ~…かがみぃ…」 な、寝言で私の名前を!? 「…お、お姉ちゃん?」 つかさはさらに混乱している。 私は私でものすごく恥ずかしい。 「だから起きろって!」 「ん~…?かがみどったの?」 「はあ、やっと起きたか。」 これでやっと話が進む、と思った矢先、つかさが妙に取り乱して言った。 「あ、あの、私トイレ行ってくるね!」 ガチャン! そして部屋から逃げるように出て行った。 「「?」」 「どしたのかな?」 「さあ…。」 「妹さんてシャイなの?」 「いや、そういう問題でもない気が…。」 こなたには見えなかったのかもしれない。しかし私ははっきりと見ていた。 出ていく直前のつかさの表情には、戸惑いと混乱。 ここまではまだ分かる。 姉のベッドで寝ていた女の子が寝言で名前を呼んだのだ。 もし私がつかさの立場だったとしても戸惑い、混乱するに決まっている。 だが、彼女はもうひとつ、不可解な表情を浮かべていた…―― 部屋を出て私―柊つかさです―は走り出す。 心に、戸惑い、混乱、そして…恐怖―お姉ちゃんが遠くへいってしまう恐怖―を抱いて。 目的地はトイレなんかじゃない。 お医者さんの、お姉ちゃんの主治医さんの部屋だ。 さっきのお姉ちゃんの言動を思い出す。 『ちょうどいい機会だから紹介しとくわ。』 お姉ちゃんがいう。 『こいつ、』 嬉しそうな顔でお姉ちゃんは指をさす。 『泉こなた。』 何もない、虚空に向かって。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!泣 -- 名無しさん (2023-02-16 08 02 36) 背筋がゾクッと…なんか怖いですね…(笑) -- 名無しさん (2017-04-01 01 10 28) 久し振りに来てみたら自分の作品にいくらかコメントがあったので。 実は続きはあるっちゃあるんですが… もう書く気力が無くなってしまいましてね…。 すみません。 ただひとつ、僕の頭のなかではこのあとかがみと本当のこなたは幸せに暮らしていますよ。 -- 12-926 (2009-11-10 22 40 03) かがみが少しかわいそうでした… けどこれも一つの愛かと。 楽しませていただきありがとうございました。 -- 名無しさん (2009-01-16 00 53 50) シリアスな終わり方なのかな…? 続きあるのなら大いに期待しております!ww -- 名無しさん (2009-01-07 04 10 48) ↓のコメントをした者ですが・・・ もしかしてこの作品ってまだ続くんでしょうか? もしそうだとしたら凄く失礼な発言をしてしまったなあと思いまして・・・(勝手に続き予想したり、このあと救済があるかもしれないのに勝手に鬱と決めつけたり) すみませんでした! もしこれで完結なんだとしたら、このコメントはシカトでおkですw お騒がせして申し訳ありませんでした 最後にあえてもう一度。 作者さん、GJ! -- 名無しさん (2008-12-16 01 08 24) なんか最後の最後で超シリアスだ・・・ 自分はなんとか耐えられたし、こういう作品は良いと思うけど、この後の展開を予想すると凄い鬱展開になりそうなので、冒頭に注意書きとか必要かもしれない・・・ 医者に泉こなたの存在が無いことを告げられたかがみが発狂したり・・・ ダメだ、考えただけで寒気がする でもやっぱり注意書きは大袈裟かなあ すみません、言いたいことがまとまってなくて でも作品自体は凄く楽しませてもらいました! GJです -- 名無しさん (2008-12-16 00 58 46) こなた死んでるのか… -- 名無しさん (2008-08-14 01 54 20)
https://w.atwiki.jp/crossnovel/pages/122.html
仮面ライダーディケイド VS とある魔術の禁書目録 第三話「混ざりゆく世界」 ◇ 「アンチスキルが動けないって、どういうことなんですか?」 風紀委員活動第一七七支部。 そこで御坂美琴はメガネを掛けた高校生のジャッジメント、固法美偉に詰め寄っていた。 士達……ディケイドがこの世界にやって来てからすでに一週間が経っている。 だというのに美琴達との戦闘以降、まともなディケイドの情報は掴めていない(ある学生寮付近で謎の戦闘跡があったが、ジャッジメントに知らされぬまま処理されている)。 その原因の一つとして、アンチスキルの動きがほとんどないというのがあげられる。 同じ治安維持組織と言えどもジャッジメントは学生のみで構成されている、学園都市の踏み込んだ箇所への捜査権限は無く、アンチスキルに任せざる負えない部分もあるというのにこれではどうしようもない。 「落ち着いて御坂さん、こっちでも確認を取ってるんだけど、どうにもアンチスキルの命令系統が何者かにいじられてるらしいのよ」 「そんな、アンチスキルの命令系統に手を出せるなんて……まさかそれもディケイドの仕業なんですか!?」 「そこまでは何とも言えないわ、ただ、そんな状態で下手に動いたら逆にディケイドやスキルアウトの犠牲になるだけ……わかるでしょう?」 犠牲になるとまで言われては美琴は何も返せない。 それでもディケイドを放っておく形になっている現状に納得できない顔をしているのを見て、黒子が横から話に入ってくる。 「スキルアウトと言えば、連中、最近また動きが活発になってるらしいですの」 「ああ……その話なら聞いたことあるわ、何でも能力者が何人か行方不明になってるとか」 黒子の話に固法の表情が若干曇る。 一時期彼女自身も能力者であることを隠してスキルアウトに入っていたことがあり、その時所属していたスキルアウト関連の事件がつい一月前にあったばかりだ。 やっていることも能力者狩りと、前と同じ事もあり彼女にとってはあまり好ましい話題ではないのだろう。 「あ、白井さん白井さん」 「なんですの初春?」 部屋の奥から黒子を呼びつける声が聞こえ、棚で仕切られた奥を覗き込む。 そこで一台のパソコンを操作している少女、初春飾利は画面をじっと見つめながら口を開く。 「丁度今スキルアウトの事件について調べてたんですけど」 「連中のアジトでも見つけたんですの?」 側まで歩み寄り画面を見つめる。 初春が纏めた情報の文書へ目を通し、その内容に表情を厳しく変化させた。 「この情報、信用できますの?」 「ネット上の目撃証言でしかないですけど、スキルアウトによる被害の位置とは合ってます」 「……まだ詳しい位置までは公表してないはず、ということは信頼性は高いですの」 「ちょっと、何の話よ?」 二人の話に焦れて美琴が問いかけ、黒子はしばらく悩みそれに答える。 「能力者狩りの目撃情報ですの……スキルアウトを、ディケイドが率いていたと」 「何ですって!?」 ◇ 光写真館。 その一室で士は右手の包帯をゆっくりと外していく。 「士君、どうですか?」 「……問題ない、もう治った」 軽く拳を握り感触を確かめてからの言葉に、夏海はほっと息と吐く。 「だけどこれからどうする? もう迂闊に外にも出れないぞ」 「士は言うまでもなく、僕らもその仲間とすでに認識されてしまっているからね、お宝も探せやしない」 この一週間、士たちは何の行動も取れていない。 学園都市の監視は厳しく(何故か光写真館の内部までは監視の目が届いていないのだが)、少し外に出るだけで無人兵器らしき物が睨みを効かせてくる。 恐らくは鳴滝の仕業であろうディケイドの悪評を何とか払拭したいところなのだが、動くことができなければどうしようもない。 ……あるいは、彼らを追跡するものが無人兵器のみだという不自然さに気づいていれば、また話は別だったのかもしれないが。 「でも、ライダーの世界を巡っている時もディケイドは敵視されていたけど何とかなりましたし、今回だっていつものようにやれば大丈夫ですよ!」 「いつものように、ね……いつもはその世界のライダーの側で行動してたよな」 「そうですよ、だから今回も」 「で? この世界のライダーに当たる人物とやらは一体誰で、ここから動くことさえままならない状態でどう見つける?」 「……どうしましょう?」 乾いた笑いで返す夏海に大きくため息を吐く。 その時、奥のキッチンから一人の老人、光栄次郎が人数分のホットケーキを持ってやってきた。 「まあまあみんな、難しく悩んでるだけじゃまいっちゃうよ、ほら、これでも食べなさい」 「おっ、遠慮なくいっただきま~す♪」 「ねぇねぇ、困ってるなら私と夏海で調べてきましょうか?」 考えるの事をあっさり放棄してホットケーキへと向かうユウスケの頭上を小さな銀色のコウモリが通りぬけ、士達の前で羽ばたきながら意見を出す。 「キバーラ、協力してもらえるんですか?」 「別にもう鳴滝様に味方する理由もないしね~、今の私は夏海のみ・か・た♪」 夏海の周りを飛び回るキバーラを見ながら士は考える。 ライダーの世界を旅していたころと違い、今の夏海は戦う力がある。 そして恐らくはまだ士の仲間として認識されていない、現状で唯一動ける人物だ。 「けど夏みかんじゃな……」 「何言ってるんですか士君! ここは私に任せてください!」 「そんな心配しなくても大丈夫よぉ、私だってついてるんだしぃ」 「はぁ……仕方ないな、無茶はするんじゃないぞ」 仕方ないといった様子で頷く士に、夏海ははりきってキバーラと共に学園都市へと繰り出して行く。 その様子を見ながら、士は真剣な表情で思考を巡らしていた。 ◇ 狭い路地。 昼間だというのに周囲の建物に遮られて日も入らず、路地の外からでは何が起こっているのか見ることさえできない。 そんな、助けがやってこないのが当たり前の世界で一人の男が複数の人間に取り囲まれていた。 「スキルアウトか……! だが相手が悪かったな!」 男が不適な笑みを浮かべたままその場で拳を振るうと、明らかに間合いの外にいたはずのスキルアウトの一人が見えない力を受けて吹き飛ばされる。 「能力者を甘くみるなよ!」 彼の能力はレベル3の念動力【テレキネシス】。 拳を動きと同じ軌道を取る『力』を自身の視界内に生み出すことができる能力だ。 この能力なら最小限のモーションで相手を倒すことができ、多数の相手だろうと遅れはとらない。 自分の優勢を確信する男だったが、スキルアウトはまったく怯んだ様子がなく、不気味な笑みを浮かべながら包囲の輪を狭めてくる。 「な、何だこいつら……」 言い得ぬ悪寒を感じながらも能力を発動しようとするが、それより先にスキルアウトが動きを見せた。 「――っ!?」 男が息を飲む。 自分を取り囲んでいた人間が一瞬にして緑色の異形へと姿を変えたのだから無理もない。 能力者の中には自分の姿を変えたり、相手に自分の実体を見せないようにする者もいるがスキルアウトは無能力者の集団、まさか全員がそんな能力を持っているはずもない。 「馬鹿な、スキルアウトが能力を……!?」 思わぬ出来事に後ろへ下がりかけ、いつの間にか真後ろにいたスキルアウトに驚きながら振り向く。 「くそっ、能力者だろうが関係――」 思考を落ち着かせる間もなく拳を構え、能力を発動する寸前、気づく。 周囲のスキルアウトの姿が異形の怪物から再び変わり、人間の姿に……自分と寸分違わぬ姿へと変化したことに。 「な、んだ……何なんだ、お前らの能力は!?」 「俺か? 俺の能力は……」 目の前のスキルアウトが拳を振り上げる。 「レベル3の、テレキネシスだよ!」 「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ◇ 「自信満々で出てきたのはいいけど、何も見つからないわねぇ」 「そうですね……スーパーショッカーの怪人もいないみたいですし」 士には大見得を切ったものの、夏海たちとて行くべき宛てなどありはしない。 とはいえ何の収穫もなく戻って士に嫌味を言われるのも面白くない、というわけで無目的に歩き回るだけの時間が続いている。 「あれ? あの人達って……」 ふと視線を上げると、士と戦った二人の少女が話しているのを見つけた。 丁度同じタイミングで向こうもこちらに視線を向け目があってしまう。 咄嗟に身構えるがそのまま視線を外され、自分のことを覚えていないのだと気づく。 あの時二人の目は士に集中していた、隣にいた夏海には気付かなかったのだろう。 ほっとしながら早く立ち去ろうとした時、近くの路地から悲鳴が聞こえてきた。 「お姉さま!」 「わかってる!」 黒子と美琴は即座に反応し路地悲鳴の下へと駆け出していく。 「キバーラ、私たちも!」 「いいの? 下手に関わって士の仲間だってバレたら大変よ?」 「でも、放っておけません!」 「まぁ夏海がそういうならいいけどね~」 二人の後をついていく形で夏海が走り出し、その直後路地から一人の男が飛び出してきた。 全身をボロボロにしたその男は黒子の付けているジャッジメントの腕章を見ると這いずるようにして近づき、怯えた表情で口を開く。 「た、助けてくれ! あいつら、ただのスキルアウトなんかじゃない……!」 「落ち着いて、今救急車を呼びますの」 「黒子、その人お願い!」 「ちょっ、お姉さま!?」 男を黒子に任せ、美琴は単身路地へと飛び込んでいってしまう。 後を追いたいが痛めつけられている男を放っておくわけにはいかない、黒子が悩んでいる間に、夏海はその横を駆け抜ける。 「!? 待って、この先は危険ですの!」 「大丈夫です、あの人は私が守ります!」 「ちょっと……ああもう、何でこう一般人がジャッジメントより危険な場所に行くんですのー!」 ◇ 路地に入った美琴は目の前の光景に言葉を失っていた。 ついさっき助けを求めてきた男、その男と寸分違わぬ姿をした男が二十人近くいるのだ。 「何こいつら……能力者……?」 「常盤大の制服か、いいねぇ……お前、レベルはいくつだ」 男の一人が美琴へと問いかける。 まるで品定めをするかのような視線に顔を歪め、パリパリと火花を散らしながら答えを返す。 「レベル5、能力はエレクトロマスター」 「なっ!? まさか、常盤大のレールガ――」 言い終わるよりも先に放たれた電撃が男たちをなぎ倒す。 改めて気を失った男を見るが、やはりその姿はどれも同一だ、その奇妙な光景に眉を顰めつつ黒子と連絡を取ろうと踵を返すが、背後で何かが動く気配を感じ再び振り返る。 「……あんたがこいつらの親玉、ってとこかしら?」 路地の奥からムカデを模した怪物、ジオフィリドワームが美琴へと敵意を剥き出しにしながら現れる。 前髪から電撃をパリパリと放って威嚇しながらいつでも動けるように重心を低く―― 「キバーラ! 変身!」 「はいは~い、へ~んしんっ♪」 「えっ!?」 美琴の横を駆け抜けながら、夏海はキバーラを前に翳して意識を集中させる。 キバーラから無数のハートが舞い夏海を包み、その中から白い甲冑を纏い赤い瞳をした姿へと夏海は変身する。 仮面ライダーキバーラ、世界の破壊者となった士を止めるため、夏海が手に入れた戦うための力だ。 突然の乱入者に困惑する美琴には構わず、ジオフィリドワームへと組み付きその腕を抱え込む。 「夏海、離れちゃダメよぉ?」 「わかってます!」 密着状態での攻防を繰り広げるワームと夏海に美琴は焦れる。 美琴からは白い甲冑の女性が何者かはわからないが、自分の味方をしてくれているのは確かだ。 ならば共闘するべきなのだろうが、こう密着されては電撃の攻撃で巻き込んでしまい動きがとれない。 「ちょっと、離れてくれないと巻き込むわよ!?」 「離れたらダメなんです! 私じゃクロックアップに対抗する手段が――!?」 「夏海! こいつ、このまま――」 キバーラの言葉が途中で消え去る。 ワームが夏海に掴まれたままクロックアップに入り、美琴の前から去ったためだ。 その場に残された彼女はまったく掴めない状況に頭を抑え、直後起きた現象にうんざりとした表情を作る。 「今度は何よ……」 オーロラのような壁が現れ、そこから一つの人影が出てきた。 その人物は美琴が反応するより早く、自らのベルトに一枚のカードを挿入する。 「ディケイ……!」 『ATTACK RIDE BLAST!』 電子音と同時にライドブッカーから放たれた銃弾に、付近のガラクタを磁力で集め即席の盾を作る。 だが予想していた衝撃はなく、盾の影で様子を伺っていると周囲のスキルアウト達の体が爆発、四散した。 「な……!?」 ようやく先程の攻撃の狙いがスキルアウト達だったことに気づき、盾を解除して目の前に立っている『ディケイド』を睨みつける。 「あんた、なんて事を……! スキルアウトはあんたの仲間じゃなかったの!?」 美琴の怒号には答えず、ただ静かにライドブッカーを向けて引き金を引く。 再び放たれた銃弾を磁力によってビルの壁に張り付くことで回避、反撃として放った電撃はソードモードへと変形させたライドブッカーを前に突き出すことでかわされてしまう。 と、その行動に首を傾げる。以前戦った時は今のとは比べ物にならないレベルの雷撃をまともに受けたというのにダメージはなかった、ならば何故今回はわざわざ回避したのか。 (そういえば前の時は姿が変わってた……あいつの能力は、何か条件があるの?) 思考を巡らせ、その一瞬の隙に『ディケイド』は再びカードをベルトにセットし起動させる。 『KAMEN RIDE KIVA!』 「しまっ……また別のに!?」 黒い体に赤い装甲、黄色い瞳はコウモリの羽を思わせ、右足と体を覆う銀の装甲は何かを拘束するかのように鎖で縛られている。 キバ、運命の鎖に立ち向かう、気弱ながら心優しき青年が変身する仮面ライダーだ。 姿を変えた『キバ』へと電撃を放つがその攻撃が届くよりも早く『キバ』はその場から離れる。 自身の雷撃で『キバ』の姿を見失ってしまうが、美琴は常に発している電磁波の反射波により周囲の物体を感知することができる、すぐさまその位置を確認し、 (……!?) 振り返る暇さえ惜しみ、磁力を解除し二、三クッションを挾みながら地面へと降り立つ。 同時に強い力で砕かれた壁が美琴の周りに降り注ぎ、自分の判断が遅れていたらと背筋を震わせる。 先程まで自分のいた位置を見上げると、わずかに壁面からせり出た換気口に「逆さま」に立つ『キバ』が美琴の方を見上げながら新たなカードをセットしていた。 『FAINAL ATTACK RIDE KIKIKIKIVA!』 激しく鳴る電子音に反応し、右足を拘束していた装甲がはじけ飛ぶ。 内に収められていた血のように赤い翼が広げられ、重力に逆らった体勢のまま右足を高く振り上げ、地上の美琴へと「飛び上がる」。 その右足から感じる圧迫感に、美琴は理性で考えるより早く、自らの最強の技を放とうとコインを構え迎え撃つ体勢を取った。 『ATTACK RIDE BLAST!』 「ぐぁっ!?」 「な!?」 『キバ』と美琴の激突を妨害したのは横からの銃撃。 銃撃が放たれた方向を向いた美琴は、そこにいた人物に思わず一瞬動きを止めてしまう。 「まったく、夏みかんを追ってきたら面倒なことになってやがる」 「ディケイド……!? どうして、だってこいつも……」 「ああ? ……なるほどな、だいたいわかった、こいつが俺になりすましてこの街で悪さを働いてたってとこだろ」 「偽物……?」 美琴と士、二人の視線に晒されながら『キバ』は何も言わず更なるカードを取り出し戦う意思を見せる。 『FORM RIDE KIVA BASSHAA!』 『キバ』の右腕と体に鎖が幾重にも巻きつき、緑の装甲へと変質する。 瞳も同じ色へと変化し、右手には魚のヒレのを模した装飾が施された緑の銃が現れ構えを取った。 「ディケイドの力を使いこなしてるとはな……おい、下がってろ、後は俺がケリをつける」 「冗談! 私たちの街で好き勝手やられてんのよ、放っておけるわけないでしょう!」 「あのな……っておい、電撃はやめろ!」 急に強い口調で静止され、慌てて放とうとしていた電撃を解除する。 一瞬遅れて足元に違和感を感じ見下ろしてみると、一面が膝の辺りまでの深さの水で浸されていた。 士の警告が少しでも遅れていたら『キバ』だけでなく自分達も電撃を浴びることになっていただろう。 「な、何よこれ!?」 「キバの力だ、自分の有利なフィールドを作り出す」 「有利って、これじゃあいつだって動きにくい……」 「来るぞ!」 言葉を途中で遮り士は美琴の前に立つ。 同時に『キバ』が放った水弾をライドブッカーで切り払い、ガンモードで反撃しようとするが水面を滑るように動く『キバ』を捉えることができない。 「あんた、私を守って……?」 「魚人相手に水中戦は不利か、おい、ビリビリ中学生」 「んなっ!? あんたまでビリビリ言うな!」 「掴まってろ」 「え?」 『KAMEN RIDE SKY!』 美琴を抱き寄せながら士もその姿を変化させる。 深い緑のボディを茶色の装甲が包み、赤い瞳と同じ色をしたスカーフが風になびく。 スカイライダー、空を愛し、決して優しさを忘れない青年の変身する仮面ライダーだ。 『ATTACK RIDE SAILINGJUMP!』 「はっ!」 「きゃあああ!?」 セイリングジャンプ、スカイライダーの持つ重力低減装置による飛行能力だ。 水中から飛び出し、叫ぶ美琴には構わず水面の『キバ』を睨みつける。 「おい、その辺の屋上に置いておくから逃げておけ!」 「な……さっきも言ったでしょ! このまま放っておけない……っての!」 士の言葉を跳ね除け、空中から強烈な雷を『キバ』へと放つ。 バッシャーフォームの得意とする水中フィールドを作りだしたのが裏目に出た、持ち前の超感覚で雷撃の直撃こそ回避するが水を伝う電撃からは逃げられない。 たまらずフィールドを解除し膝をつく『キバ』を見て、ようやく美琴は満足な笑みを浮かべた。 「どうよ! 私だって戦えるっつーの!」 「なるほど、確かに少しは頼れそうだ、なら、今度は俺の力を見てもらおうか!」 再びビルの壁面へと張り付いた美琴へと声をかけ、一枚のカードをディケイドライバーで起動する。 『FAINAL ATTACK RIDE SSSSKY!』 「はあああああ!」 よろめいたままの『キバ』へと士は回転を繰り返しながら突き進む。 「ぐ……」 『FORM RIDE KIVA DOGGA!!』 『キバ』が呻きながらカードを起動させると、緑の装甲が剥がれ、両手と胴体を新たに紫の頑強な鎧が包み込む。 更に巨大な拳を模したハンマーが現れるが、それを手にする前に士の大回転スカイキックが炸裂し吹き飛ばされる。 地面を転がりながら、激しいダメージによって元の『ディケイド』に姿が戻るのを見て士と美琴の二人も地面へと降り立った。 「やったの?」 「まだだ、直前で装甲の厚い形態になって直撃を避けやがった」 二人は倒れている『ディケイド』へ慎重に近づいていく。 だがそれよりも早く『ディケイド』は立ち上がり、ライドブッカーを構えカードを起動する。 『FAINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE!』 士達と『ディケイド』の間に10枚のエネルギーの壁が浮かび上がる。 起死回生の一手としては甘い、それほど広くなり路地といえど、大きなダメージで動きが鈍っている状態での直線にしか飛ばない攻撃を回避できないほどではない。 美琴の腕を引っ張りながら射程外へと飛び、『ディケイド』が続けて起動したカードに仮面の下の目を見開く。 『ATTACK RIDE ILLUSION!』 ファイナルアタックライドの予備段階のまま『ディケイド』が三人へとその数を増やす。 カード名こそ「幻」だが三人の『ディケイド』全てが実体を持っていることを士は知っている、この路地では三発のディメンションブラストを回避しきることは不可能だ。 「くそっ、間に合え!」 『FAINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE!』 相殺しようと士も動くが、イリュージョンのカードを使うだけの時間はない。 士の放った光弾は一発のディメイションブラストを相殺するが、残る二発は変わらぬ威力のまま二人を飲み込もうと突き進む。 「士!」 せめて美琴だけでも守ろうと、その体を抱き寄せ自分の影に隠そうとする士の耳に聞き覚えのある声が届く。 「ユウスケ!? ダメだ、来るな!」 通りからトライチェイサーを駆って来たユウスケに警告するが、何を思ったか逆にスピードを上げて士達の横を抜けエネルギーの本流の前へと飛び出していく。 ディメイションブラストがユウスケを飲み込もうとした瞬間急停止、トライチェイサーの後部に乗っていた男が前に出てその「右手」を叩きつける。 「っだあああああ!!」 「な、なんであんたがここにいるのよ!?」 「イマジンブレイカーだと……何故貴様がディケイドの味方をしている!?」 ディメイションブラストを打ち消した男、上条当麻の姿を見て初めて『ディケイド』が言葉を発する。 その問いに答えたのは上条ではなく、『ディケイド』の背後、路地の奥からやってきた男。 「あえて理由を挙げるなら、お前は動きすぎたのさ」 「何……!?」 不敵な笑みを浮かべ話す男、土御門の背後には先程ワームと共に消えた夏海とディエンドに変身した海東の二人が立っている。 その様子はどう見ても敵対しているようには見えず、『ディケイド』を共通の敵と認識していることを意味していた。 「ディケイドとして学園都市のあちこちで悪事を働いて、そっちの本物のディケイドに罪を擦り付ける。 悪くはなかったが、本物が身動き取れない時にまで能力者狩りをしてたら流石に気づかないわけがない。 まあそれ以前の問題として、ここのトップはあまりお前のことを信用してなかったみたいだがな」 「あ……スキルアウトが動かなかった理由って」 「もうすぐディケイドの手配も解除される、後はお前を捕まえれば万事解決ってわけだぜい」 笑みを深くしながらの土御門の言葉に『ディケイド』は悔しげに拳を強く握り締める。 その様子を見て、今まで黙っていた士が一歩前に出て声をかける。 「種明かしもオシマイのようだ、次は俺の質問に答えてもらうぞ。 どうしてお前がディケイドの力を使っているんだ……鳴滝」 「僕も疑問だね、士の評判を落とすためとはいえ、あんたがここまで自分で動くなんてらしくない」 士と海東の問いかけに『ディケイド』……鳴滝は小さく、低い声で言葉を吐き出した。 「私には、もう、何も残っていないのだ……」 「なに?」 「ディケイド! 貴様は必ず倒す……貴様も、貴様に味方する者も、全て!」 「なっ……待て、鳴滝!」 憎悪に満ちた言葉をぶつけると同時に、オーロラの壁が鳴滝の体を包み込みその姿を消してしまう。 鳴滝の持つ世界を越える力を知らない土御門達は慌てて周囲を見渡すが、当然見つかるはずもない。 「どういうことだ……鳴滝の狙いはあくまで俺だけだったはず……」 「それ以前に、あの人は士が世界を破壊するからそれを止めようとしてたんだろ? 何でまだ俺たちを狙ってくるんだよ」 「やれやれ、どうにも情報整理が必要なようだにゃー? それならこんなところで立ち話も難だぜよ」 変身を解除し悩む士達へと呼びかける。 鳴滝による誤解が解けたとはいえ一時は敵対していた者同士、互いに話しあう必要はあるだろう。 「……そうだな、一度戻るとするか」 ◇ 名も無き荒野。 誰にも知られず、誰の記憶にも残っていないその場所に彼は立っていた。 くすんだ色の帽子をかぶり、丈の長いコートを羽織った初老の男、鳴滝はそのどこまでも続く荒野を遠い眼で見つめ続ける。 その右手に持っていた物に視線を落とし、強く握り締める。 それは一本のメモリースティックだった。 「D」の文字が記されたそのメモリーから、鳴滝の意思に呼応するかのように電子音が流れる。 「貴様だけは、絶対に許さん……!」 『DECADE!』 第三話 END NEXT STORY「その幻想を破壊せよ」
https://w.atwiki.jp/nekogoya/pages/100.html
中東での利権を、中華帝国の行動を黙認することで確保しようとした米国の目論見は完全に崩れ去った。 この混乱に終止符を打ったのが、アメリカ大統領、ジョージ・バラマの急死である。 公の報道はこうなっている。 某日深夜、ジョージ・バラマ大統領は、ホワイトハウス内のバスルームで倒れているのを、様子を見に来たバルモア夫人によって発見された。 死因は心臓発作。大統領は心臓に持病を抱えており、連日の激務により、最近では疲労を訴えることが多くなっていた。 ただし、「バルモア夫人の強い希望」により、検屍の類は一切されず、大統領の遺体は、家族だけの密葬の後、火葬によりこの世から消えた。 バルモア夫人はの後すぐにアメリカを離れ、フランスのニースに隠棲したが、夫人が、生活費の名目で中華帝国からかなりの金額を極秘裏に受け取っていた事実もある。 中華帝国にとって助けとなる決定打を打ち出せなかった大統領に対する報復により暗殺されたと、まことしやかに囁かれるのも無理はない。 彼の死因が、本当に心臓麻痺による死亡だったのかは、永遠に闇の中だ。 そのバラマの後釜になったのが、副大統領のジェームズ・タイラーだ。 彼もまた、親中派の一人と目される一人であり、中華帝国からバラマの後継者として期待された人物だった。 二選を目指し、志半ばで倒れたバラマの後任として大統領選挙に出馬することを表明した彼だったが――― 出馬表明の翌日、シカゴで暗殺された。 犯人は中国人によって仕事を失ったと主張するヒスパニック系の移民。 背後からサタデーナイトスペシャルの22口径3発を脳に受けた“タイラー候補”は、初演説ではなくその無惨な死体で翌日の朝刊の一面を飾った。 時間的に後継者を選択する余力を失った与党・民政党に、野党連邦党が送り出したニコラス・J・ベネット大統領候補を止めることは出来なかった。 実は、このベネットというギリシア移民の子孫を、中華帝国は理解しかねていた。 経済的にも中道的な発言を繰り返し、右派なのか左派なのか判然としない、日和見的な態度を繰り返すせいで、大統領候補でありながら、対するバラマに全く歯が立たないだろうと囁かれ続けた存在だ。 この男が大統領に就任したら? その図式を、中華帝国は描くことが出来なかった。 むしろ、就任こそあり得ないと切って捨てる程度がふさわしい程度の認識しか持ち合わせていなかったともいう。 それが、中華帝国にとって最大の誤算であり、最大の悲劇の原因を生み出すことになる。 ベネットが対抗馬なしを理由に大統領に就任したのが、EU軍のバクダッド制圧の日だ。 このままでは世界戦争になる! この最悪の事態を回避する手腕を、世界がベネットに期待していた。 新大統領は事態の収拾を目指す国際会議を提唱した。 中華帝国が、駐米大使の偉をホワイトハウスに送り込み、大統領となったベネットとの接触させたのは、その協力を求めたからに他ならない。 先のバラマ同様の尊大な態度を崩さない偉に対し、ベネットは全く動じることなく、やんわりとした態度ですべてを受け流し、狐につままれたような顔をした偉をあっさり追い返した。 それでも偉は、自分の威圧でベネットをうち負かしたと本国に報告した。 ―――彼はバラマ以上に人形として有益でしょう。 CIAが諜報した偉の報告は、そんな感じでまとめられていた。 何をどうしたらそう思えるのか。 偉が本気でそう思っていたことは、後の関係者の証言からも明らかだ。 国際会議は、提唱からわずか数日後にはブリュッセルで開かれた。 すでにアフリカののど元まで占領下に置く圧倒的軍事力と、世界最大の経済力を保有する中華帝国に対し、各国は終始押され気味の交渉を余儀なくされた。 その中で、なぜか提唱した米国は、様々な、それこそ幼稚じみた理屈をもってまで会議への参加を延期し続けていた。 会議は混乱し、その中で中華帝国は自らの勝利を確信しつつあった。 それから数日後の中東。 アラビア海に浮かぶ沖縄県ほどの小さな島。 名をラピス島という。 その地理的条件と、大型艦艇が多数接岸出来る港を持つことから、歴史ある中継貿易の拠点として繁栄した英国の植民地だ。 アラビア海の制海権を掌握した中華帝国軍にとって目の上のたんこぶに等しい存在だが、その小さな規模から、あえて無視していた所だ。 ここに、米軍はバーレーンに向かう途中の艦隊を停泊させていた。 “鈴谷(すずや)”は、そこにさしかかろうとしていた。 事態は、そこから始まる。 “鈴谷(すずや)”がラピス入港を目前にして航行を続けている。 「美奈代、美奈代っ!」 長旅により、ついに食事から麺類が消えた食堂で、ハム定食と鯖缶定食のどっちを食べようか迷っていた美奈代を、興奮気味の声が招いた。 窓際に立ったさつき達だ。 何人か、乗組員達も興味深げに外を眺めていた。 「どうした?」 「ほらほらっ!」 美奈代が窓をのぞくと、そこには“鈴谷(すずや)”と平行して飛行す緑のバケモノが2機いた。 ずんぐりとした機体にプロペラが6つ回っている。 機体のサイズはメサイアよりはるかに大きい、空を飛ぶ様はまさに“バケモノ”だ。 しかも、その翼には大きな日の丸が描かれている。 「随分と大きいな」 「八式飛行艇ですよ」 美晴が私物の一眼レフのデジカメを構えながら言った。 「八式?」 「往年の名機、二式飛行艇の後継機です。半世紀かかって、すべての性能でようやく二式を越えることが出来た、現代の名機です」 「ふぅん?」 美晴は熱心にそう言うが、美奈代はピンとこない。 ただ、“大きいのが飛んでいる”程度にしか思えない。 翼幅48メートル、最高速度550キロ、偵察時の航続距離は9500キロに達する飛行艇は他には存在しないとはいえ、機械音痴の美奈代にとって“飛べば皆同じ”程度の認識しかない。 しきりに“乗ってみたい”を繰り返す美晴とは違う。 「それで」 美奈代は窓から顔を離した。 「連中、何でこんな所飛んでいるんだ?」 「国際貢献の一環ですよ」 「?」 「海軍は、三ヶ月戦争の頃から、アフリカ近海の哨戒任務を担当しているんですよ。私達がヨーロッパルートを使えるのは、彼等の展開があってこそです」 「……感謝すべきか」 美奈代はそうつぶやくと、飛行艇に敬礼した。 「くそっ!」 受話器をアームレストに戻した美夜の口から舌打ちが漏れた。 「艦長?基地司令部は何と?」 「警戒任務にメサイアを回せ。その一点張りだ」 美夜は苦々しげに言った。 「基地司令はかなりの頑固者だ」 「哨戒ですか?」 「ミサイルの哨戒迎撃任務だ」 「ああ、それならメサイアは適任ですが―――」 副長はそこまで言ってようやく言葉の意味が理解出来た。 「つまり!」 「ラピスに反応弾が撃ち込まれる公算大。日本軍も警戒任務上、協力願いたし。言い分はそういうことだ」 「海軍がすでに飛行艇を派遣しているとは―――驚きでしたな」 「ウチの旦那共より、海軍の方がしっかりしているってことさ」 美夜は小さく微笑んだ。 「ラピス島からなら、中東の原油が輸出を再開した場合、あらゆる意味で警戒する拠点として申し分ないからな」 「では、我々はどうします?」 「明日には米艦隊の追加も入る。敵の狙いはそこだろう」 「大陸間弾道弾?」 「それなら、防空司令部からの通報一発で済む―――水と食料、任務終了後の休養、その辺が交換条件かな」 ●中華帝国軍空母“鞍山” 「日本軍だと?」 ―――ラピス島沖合にて航行中の飛行艦を確認。 その報告を受けた中華帝国海軍第四機動艦隊司令李提督は食事の手を止めた。 「はい。輸送タイプ1。随伴艦なし」 「……近衛騎士団(インペリアルガーズ)か」 李提督は壁の海図を見た。 「目的はラピス基地での補給か?」 「間違いないでしょう」 副官の海大校は顔色一つ変えずに頷いた。 「放っておいても構わないんだがな」 「現在、最も近い日本軍は、偵察部隊だけです。いかがなさいますか?」 「ここで我々の存在は明らかに出来ない。針路を変更しよう。本国からは?」 「現場の責任有る判断により善処せよ。ただし、無用の混乱は避けよ」 「有り難いお言葉だ……」 李提督は茶をすすると、席を立った。 「一々我々から仕掛けることで、我々の存在を暴露する必要もないだろう」 「党もその判断のようです」 海大校は頷いた。 「日本軍撃滅は現在の我々の任務ではありません」 「そうだ」 制帽を正しながら李提督は楽しげに頷いた。 「今の―――な」 「はい。今の、です」 「よろしい。手出しは無用。必要なら接触回避の手段を厭うな」 「了解です」 海大校は提督との打ち合わせを済ませ、艦橋に戻ろうとした。 甲板からは航空機の発艦音が轟き渡っている。 「―――ん?」 海大校は足を止めた。 発艦命令は出ていないはずだ。 それなのに何故? 海提督はすぐ近くの艦内通話の受話器を取った。 「飛行管制か?この発進は何だ?」 「“天津”から上がった航空隊が!?すぐに引き返せっ!」 艦橋に怒鳴り込んできた李提督は顔を真っ赤にして怒鳴った。 「艦長!誰がこんな命令を出した!」 艦橋で目を丸くしているのは、張艦長だ。 「で、ですが」 何故、自分が怒鳴られているのか全く分からない。 艦長はそういう顔をしていた。 「日本軍ですよ!?」 「自分の任務をわきまえろっ!現在においての艦隊の任務は哨戒だろうが!」 「しかしっ!」 姿勢を正した張艦長は叫ぶが如き声を張り上げた。 「小日本撃滅は、党から命じられた至上任務の一つでありますっ!」 党―――中華帝国における唯一の政党。皇帝支持者の集まり、“王政党”のことだ。 皇帝の権限をかさにやりたい放題、今回の開戦も皇帝の意向ではなく、党の判断によるとまことしやかに語られている。 その権限は、逆らえば中華帝国国内では生きていけない程。 当然、彼ら軍人にとって絶対服従の対象だ。 実際の所、海外大使館勤務も経験した李提督は、王政党のやり口は嫌ってはいたが、軍人である以上、その名には逆らえない。 対する張艦長は、軍人としてより党員として出世したような人物だ。 党の名を出せば全てが沈黙する。 党の正しさが全てに優先する。 それを地で主張して出世レースに勝ってきた、軍人としてはむしろ危険な人物だ。 「……艦長」 李提督はなだめるような声で艦長に告げた。 「我が国は、日本に対して正式な宣戦布告をしていない。ここで勝手に奴らを攻撃したら、日本に我が国に対する宣戦を許す口実を与えかねないのだ」 「し、しかしっ!」 「日本に対して宣戦布告していないのは、党の方針だ。その方針に横やりを入れるつもりか?」 「そ、それは……!」 艦長は狼狽しつつ、ようやく思いついた反論を答えた。 「すでに大韓帝国は」 「日本の経済力を甘く見るな。韓国は資産を凍結され、わずか数日で経済が破綻したんだぞ?同じ目を我が国にあわせるつもりか?」 「し、しかし……っ!」 「小日本だなんだの、敵を舐めてかかると痛い目に遭うぞ中佐。軍人たる者、常に敵を侮るな」 提督は真顔でそう諭した。 何しろ、日本は反応弾保有国だ。 互いに反応弾でつぶし合いになることなんて考えたくない。 何より、その口実を自分が作ったなんて御免被る。 「―――海大校」 李提督は、脇に控えていた海大校に命じた。 「攻撃部隊の撤退を確認するまで飛行隊の指揮を任せる。それと、本国にこの事態を報告しろ。いいか?絶対に本国を刺激しないように、報告の文面には気を付けろ」 「本国が攻撃命令を下したら?」 「―――その時は話は別だ」 「絶対に命じますっ!」 艦長は怒鳴った。 ―――狂信者。 その目は、彼がそういう存在だと告げていた。 「このタイミングこそ、党が与えてくれた千載一遇のチャンスです!」 「党から与えられた命令は哨戒任務だっ!ここで我が艦隊の位置を暴露することは、党の命令に反しているぞっ!」 「―――っ!」 「これは艦隊司令としての厳命だっ!交戦は認めない、さっさと部隊を引き上げろっ!航空隊の指揮権及び艦隊の交戦権が私にあることを忘れるなっ!」 ここで手違いが生じる。 李提督にとっては、海大校に対する指示で自分の任務が終わったと思いこんだこと。 肝心の海大校は、通信管制を無視した党から送り込まれてきた莫大な通信への返答に手一杯になったこと。 最悪なことに、艦隊から離れて独立遊撃隊として通商破壊にあたる別働隊から敵輸送船団発見の報告がこの時入ったことは、後々まで海大校を後悔させることになる。 遊撃隊の位置はソコトラ島の沖合。 アデン湾から侵入する敵艦隊の哨戒も兼ねている。 そこからの通報だ。 「ソコトラ島沖合、艦種不明。一隻はタンカーと思われる」 それが遊撃隊からの報告だ。 ただ、“本当”にタンカーならその腹の中の油が敵に堕ちることだけは避けたい。 幸い、タンカーは遊撃隊から発進した航空機の攻撃可能なポジションにいる。 遊撃隊の指揮権は、提督から自分に移っていることもある。 だから、大校は“別働隊に”命じた。 ―――航空隊は、各個に攻撃に移れ。 いつもの命令だ。 命じられた航空隊は、航空管制官の命令通りに戦うことになる。 本当に、いつものことなのだ。 それに、今の彼の敵は、目の前の書類だ。 提督から命じられた報告や、党幹部を満足させるためだけに求められる現在状況の報告―――しかも、党の定めた形式と時間を厳守する必要のある―――頭の痛い敵だ。 だが――― 「本当にいいんですか?」 通信管制官の一人がしつこくそう聞いてくる。 提督の命令通り、日本軍接近の報告を、波風立てないように準備していた大校は、その管制官を見ることもなく怒鳴った。 「いいと言っているだろう!いつも通りだ!武器使用自由、全力で叩けっ!」 「り、了解―――大校の命令と判断します」 管制官は震える声で命じた。 「艦隊司令部より紅6へ、攻撃を許可する。対艦ミサイル使用自由」 「―――おい」 紅6 対艦ミサイル。 その名にひっかかった中佐は、文面を書く手を止めた。 嫌な予感どころ騒ぎではない。 しらずに、声が震えてしまう。 「貴様―――今、どこに命令を出した?」 「ですから」 管制官の顔を見て大校は青くなった。 それは、日本軍に向かった部隊と通信を続けていた管制官だった。 「攻撃命令を発しました。大校の命令で」 「馬鹿者ぉっ!」 紅6は日本軍に向かいかけ、管制官からの撤退命令に断固抗議しつづけていた空母航空隊のコールサイン。 対艦ミサイルは、言うまでもないだろう。 「間違いないな?」 隊長はジャミングのひどい通信記録を、部下に確認を命じつつ、自らも耳で確認した。 「艦隊司令部は、攻撃を許可しました」 「録音、しっかり保存しておけ?。―――日本軍を叩くっ!」 「了解っ!」 「ミサイル接近っ!数10っ!」 レーダー担当の木村が悲鳴に近い声をあげた。 「墜とせっ!」 “鈴谷(すずや)”に設置されているML(マジックレーザー)砲が火を噴いた。 抜けるような青空に、光が走った後に白煙の柱が生まれた。 「FGF、全展開しますかっ!?」 「まだ早いっ!ML(マジックレーザー)だけで十分だ。余計なエネルギーを消費するな!生きて帰れなくなるぞ!?」 「はいっ!」 「うわ……すごっ」 戦闘機が編隊を組んで接近する。 戦闘機を間近で初めて見たさつきはしきりに感心するだけだ。 チカチカチカチカッ! “鈴谷(すずや)”の舷側にあるランプが激しく点滅を開始したのはその時だ。 緑の点滅と赤と黄色の3色。 「何?」 「警告です」 教えてくれたのはさつき騎のMC(メサイアコントローラー)、愛沢中尉だ。 「国際法規定のFGF(フリーグラビティ・フィールド)警告です」 「何でそんなもの出すんです?」 「FGF(フリーグラビティ・フィールド)は目に見えません。通常航行時には、接触しないように警告する必要があります」 「今、戦闘中ですよ?」 「これでぶつかったら、向こうが悪くなるんです」 「―――成る程」 「バカ者っ!」 同じ頃、海大校は李提督から大目玉を食らっていた。 「誰が攻撃しろと命じたっ!飛行隊には戦闘停止を命じろっ!飛行艦だ、メサイアを搭載してはずだぞ!?」 「間に合いませんっ!」 そんな口論に近い会話を続ける二人の後ろで、艦長が手に持つ金属の筒が火を噴いた。 迎撃されたミサイルが光と煙の球に変わった。 ズズン……ッ!! 遠くで爆発音が響く。 もう恐怖感すら感じない美夜は木村に訊ねた。 「都合、これで何発目だ?」 「48発目ですっ!」 「その数、四方八方から―――よく撃つ」 対艦ミサイルは決して安い代物ではない。 それを48発だ。 感心する以外にない。 いい加減、あきらめてくれないだろうか。 美夜は内心でそう願っていた。 だが――― 「艦長、二宮中佐からです」 「―――私……えっ!?」 美夜はインターホン越しに伝えられた情報に思わず驚いてしまった。 「今度は爆装してきたぁ!?」 空母“天津”の艦橋から運び出されたのは、李提督と海大校。 その頭部からは血を流し、力無く手足を伸ばしている。 死んでいるのだ。 「―――党は小日本と戦えと命じられた」 張艦長とその部下が銃を手に艦橋から送り出される二人の死体を見送る。 「その命令に従えない敗北主義者は、我が国には要らない」 艦橋の通路から放り出された死体が海に消えていく。 「Su-30飛行隊の収容急げ。対艦ミサイルが効かないなら、爆撃にて出撃しろ」 それから一時間後。 中華帝国軍の爆撃を試みた機すべてが空母に引き返してきた。 全機生還だ。 「畜生っ!」 パイロットの一人が、キャノピーを叩いて降りてきた。 「何てザマだっ!」 パイロットは、即座に機体の下、パイロンを取り付けているハードポイントを見た。 「―――くそっ!」 翼下の10個あるハードポイントは、一つ残らずきれいに破壊されていた。 「たった一通過だぞ!?それでこれかっ!?」 ガシャンッ! ハードポイントに、そのパイロットが触れようとした時だ。 コクピットの近くですごい音がした。 パイロットがその音に驚いて後ろを見ると、機体の破孔から金属の棒が1本地面に落下していた。 何だ? パイロットは、その金属の棒が何か、即座にはわからなかった。 「中尉―――よく無事でしたね」 駆け寄ってきた顔なじみの整備兵に気づき、彼はその金属の棒の正体を訊ねた。 整備兵は言った。 「機関砲の銃身ですよ。敵の攻撃が砲を撃ち抜いたんです」 「そんな馬鹿な!俺は敵艦に1万程度しか接近していないぞ!?そんなまぐれが!」 「まぐれじゃないですよ。自分は経験がありますけど……メサイアの攻撃ってのは、それくらい正確なんですよ。中尉」 「……」 「中尉、これが初陣でしたっけ?」 「……ああ」 「ならよかった。メサイア相手に生きて帰ることが出来ただけでもハクが付きますよ」 Su-30部隊が去った後は、静寂のみが支配する航海が続く。 ラピス島まではもうすぐだ。 「中華の脅威は去った……か?」 「私、しばらくラーメン食べたくない。中華って言葉見るだけで吐き気がする」 「同感だな」 「美奈代、いい機会だからダイエットしなよ」 「うるさいっ!それにしても」 美奈代はそれが疑問だった。 「こんな所に何で中華帝国軍が?」 「哨戒ですよ」 牧野中尉が答えた。 「敵が米軍の進出を怖れている証拠です。もしかしたら、我々を米軍と誤認したのかもしれません」 「―――ってことは?」 「“鈴谷(すずや)”の警戒レーダーは捜索範囲が狭いです」 牧野中尉の言葉に、コンソールを操作する音が混じる。 「ラピス島まで、我々の出番ですよ?」 「敵は一体?」 「ここまで来るなら敵は空母機動部隊。そのお腹にはとっておきの厄介者が入っているはずです」 「厄介者?」 「はい」 コンソールパネルを操作する牧野中尉は、ちらりと通信モニター上の美奈代を見た。 「このフネを地上から蒸発させることの出来る厄介者です」 スホーイ部隊に苦渋を舐めさせた“鈴谷(すずや)”はそのままラピス島へと逃げ込んだ。 「やっと落ち着くことが出来るな」 平然とした様子の宗像は手すりに寄りかかった。 入港を開始した“鈴谷(すずや)”の背後では、米海軍空母“シャングリラ・テキサス”が補給艦から燃料を受け取っている。 米艦隊と帝国海軍の艦艇50隻。 海兵隊と陸軍部隊を含めれば10万近い兵力が、このラピス島に集結している中だ。 喧噪はあるものの、それでも十分のどかというべき空気が美奈代達を包む。 爆音を轟かせながら、“プレステ2”が“鈴谷(すずや)”上空をフライパスしていくのを、美奈代達は甲板でのんびりしながら見守るだけ。 海軍がEUに貸しを作る意味で派遣している飛行艇だ。 「―――ねぇ」 甲板に大の字に転がって、その様子をぼんやりと眺めていた美奈代がぽつりと言った 「“アレ”には、どうやったら乗れるかな」 「“アレ”?」 美奈代は無言で遠ざかっていく“プレステ2”を指さした。 「PS2ですか?」 「メサイア操縦資格じゃ無理かな」 「無理無理」 さつきは笑った。 「戦車兵に潜水艦操縦させるようなもんだよ」 「……そうか」 「ここが気に入っちゃったんでしょ」 「……うん」 美奈代は「うんっ」と伸びをした。 「青が一杯の―――なんて言うのかな?こんな広くて、どこまでも行けそうな……吸い込まれそうな―――上手く言えないけど、とにかくそんな世界……私は好きだ」 「この戦いが終わったら」 美晴は悪戯っぽく笑った。 「南方県の事務官にでも転属希望出したらどうです?パラオやグアムあたりで」 「―――悪くないけど」 美奈代は小さく笑った。 「あの飛行艇のパイロットを目指したいな」 「本気?」 さつきはあきれ顔だ。 「海軍のシゴキはきついよ?」 「私は―――」 美奈代は、もう遠ざかってしまった飛行艇が飛び去った方角を指さして、 「この“青い世界”を自由に飛べる、あの“飛行艇”っていうのに乗ってみたいだけだ」 「PS-2は綺麗なデザインですもんね」 美晴は笑った。 「それなら美奈代さん、民間のパイロット目指した方がいいですよ。PS-2の民間版は、八式飛行艇と一緒に、東亜航空の南方航路路線で就航してますし」 「……そうか」 そっちもあったか。 美奈代はそう思ったが、 「やめておけ」 そう言ったのは宗像だ。 「人の命は重いぞ。下手をすれば、重みで翼が折れる」 「それでも」 美奈代は海の向こうを指さした。 「ああいうのより、よっぽど私の趣味には合う」 「ジェットよりプロペラ―――デジタルよりアナログな泉にはお似合いだな」 宗像は笑って美奈代が指さした海の方を見た。 黒い点が10以上、こちらに向かってくる。 ぽつりぽつりと、黒い点は時間を経るごとに増えてくる。 「―――待て?」 「ん?」 「今日、発進した戦闘機があったか?」 「宗像ぁ、あるわけないじゃん」 さつきは首を横に振った。 「ラピス島は戦闘機離着陸出来ないもん」 「じゃあ、アレはなんだ?あれ、スホーイだぞ」 皆が立ち上がって海を見たその瞬間、 サイレンが鳴り響いた。 「高度を上げろっ!」 無線機に怒鳴るのは、中華帝国海軍空母“天津”攻撃隊長呉大尉だ。 迫り来る島と無数の船舶を前に、彼は歓喜するよりむしろ驚愕していた。 「こうも簡単に取らせるかっ!?」 米軍の機動部隊が集結している海域に、何の抵抗もなく入り込めたことが、呉大尉には信じられない。 「一体こりゃ?」 すでに爆撃の射程に入ったというのに、未だに対空砲さえ上がってこない。 まぁいい。 余計なことを考えるな。 俺達ゃ、爆弾を落とせばいいんだ。 それで帰ることが出来る。 つまり、これは天佑だ。 呉大尉は自分をそう言い聞かせた。 「いけっ!」 呉大尉は、パイロンに吊した爆弾を敵めがけて投下した。 ズズゥゥゥンッ! “鈴谷(すずや)”の上空をSu-30が通過する衝撃が走り、美奈代達は半ば吹き飛ばされて甲板に転がった。 「な、何っ!?」 後一歩で甲板から海に落ちるところだった美奈代は、驚いて空を見上げた。 「見てわからないのか?」 宗像だ。 「教えてやろう。これは空襲というのだ」 「いや、そういうことじゃなくて」 美奈代が驚いたのは、こんな事態でも平然としていられる宗像の神経であり、同時に――― 「宗像ぁっ!」 「なんだ?」 「どさくさに紛れて何してるっ!―――きゃんっ!」 「うむ―――85のBと見た」 抱きすくめる要領で、美奈代の胸をわしづかみにする非常識さだ。 「違うっ!」 美奈代はムキになって怒鳴った。 「これでもCはあるっ!」 「む?それは違う。絶対カップが合っていないはずだ」 「二人ともっ!」 反論しようと口を開いた美奈代を止めたのは美晴だ。 「現状、わかってますっ!?」 「すまん」 美奈代達が立ち上がろうとした途端――― ズンッ! 「きゃっ!?」 爆発音に、思わず美奈代は甲板に伏せた。 空母と“鈴谷(すずや)”の構造物が邪魔でわからないが、どこかに被害が生じたのは間違いない。 恐る恐る顔を上げた時、その視界に紅蓮の色を含んだ黒い柱が映る。 「やられたのは!?」 「あっち―――米軍の方っ!」 「何で反撃しないんだ!?」 「するのは私達ですよっ!」 「ちっ!総員搭乗っ!」 ―――ついていない。 米第9任務部隊司令官ジョージ・キャンベルは部下の肩を借りながら、内心でそう毒づいた。 さっきまで質素だが、きちんと整理整頓が行き届いていた感のあった室内は、惨憺たる有様だった。 窓ガラスは全て砕け、窓から侵入した爆風が調度品のすべてをひっくり返し、風に流れて入り込む煙が呼吸さえ困難にさせる。 何より、負傷したり、死んで床に転がる将校の死体は目も当てられない。 その光景を目の当たりにする自分もまた、体中に痛みが走る。 「提督―――ご無事で?」 副官のリー大佐がキャンベル提督の額にハンカチを当てながら訊ねる。 「大したことはない―――何が起きた?」 「中華帝国軍の奇襲です」 「……最悪だな」 キャンベル提督がそう思うのも無理はない。 この場に居合わせたのは、日英米三軍の司令部同士。緊急の会合中だった。 議題は――― ラピス島周辺における、レーダーの使用不能、通信障害が発生。 これだ。 原因に関する見解は一つ。 狩野粒子。 レーダー上と、通信における障害程度なら、粒子レベルは低い。 問題は、狩野粒子が何故、この海域で確認されたか。 ―――原因はともかく、現実の事態に対処すべきだ。 ―――両軍共に、哨戒機を上げ、警戒に徹する。 会合は、そんな軍人らしい現実主義的な結論で終わろうとしていた。 その時、こう言ったのが誰だったのか、キャンベル提督は思い出せない。 ―――狩野粒子を中華帝国軍が使ったものなら、笑えませんな。 ―――全くだ。一体、連中はどこから狩野粒子を手に入れたんだ? (笑えなかったな) キャンベル提督はため息一つ、頭を強く振ると、自力で立ち上がった。 「チンクも、絶妙なタイミングで仕掛けてきたな」 「提督」 副官の一人、ハスラー大佐がキャンベル提督に進言した。 「本気で、そうお考えですか?」 「ん?」 「魔族軍の侵略と呼応するが如きタイミングで近隣諸国へ武力侵攻。さらに、この狩野粒子を前にして……」 「君は―――」 「自分は断言します。連中は、魔族軍とつながっています!」 「根拠は?」 「根拠!?」 ハスラー大佐は、上官に怒鳴った。 「周りを見てくださいっ!これで十分でしょう!」 ハスラー大佐の指さした先には、このラピス島までの航海を、その苦楽を共にしてきた司令部のスタッフ達のなれの果てが転がっていた。 「チンク共がこんなことしなければ、こいつらは“こう”ならずに済んだ!第一、我が軍はまだ宣戦布告すらしていない!中立宣言国ですよ!?」 「……っ」 「中華帝国軍が接近するタイミングで、この辺一帯が狩野粒子に汚染された!中華帝国軍が散布したと宣言して世論が信じればそれでいいんですよ、提督っ!」 「……とりあえず」 提督は答えた。 「政治的な話はペンタゴンとホワイトハウスに委ねよう。私の権限は国と国民から任された艦隊の範囲に限定されている」 「全ては、提督の報告にかかっています―――ホワイトハウスが、世論が我々に報復を許すか否か」 「善処しよう」 「安全が確保されるまで、シェルターに入ってください。今、艦隊に戻るのは危険です」 「その前に艦隊に対空戦闘を命じろ。メサイア隊は全騎戦闘態勢」 そこまで言いかけたキャンベル提督の声を遮ったのは、日本から送り込まれてきた飛行艇部隊を束ねる有馬司令の怒鳴り声だ。 「対潜警戒怠るなっ!」 壁にかかっていた電話相手に、それまでの温厚さは微塵も感じることは出来ない。 「水中から来られたらアウトだぞ!それから、“鈴谷(すずや)”を上げろっ!空襲が終わったら送り狼をさせるんだ!」 日本語がわからないキャンベル提督には、彼が何と言っているかわからない。 ただ、 タイセン。 ケーカイ 職業柄、キャンベル提督が知っている数少ない日本語の語彙にその言葉があった。 アリマは対潜警戒を命じた。 何故? 狩野粒子。 その存在が念頭にあったキャンベル提督は、その理由に即座に思い当たった。 彼は部下への命令を追加した。 「全艦、ソナー警戒。対潜兵装は即時発射可能にしろ、何隻か、対潜任務のため環礁から出せ。最悪―――」 提督は空襲の続く窓の外を睨んだ。 「アトミック爆雷の使用を」 「し、しかしっ!」 「“あれ”の使用は、大統領から私に一任されている」 「潜水艦相手にですか?」 「ジャック。メサイア隊を攻撃に出せ。それから君」 キャンベル提督は狼狽する副官をあきれ顔で見た。 「それは、地中海で我が軍が、何にどんな目にあわされたか分かった上での発言か?」 同じ頃、 大型輸送艦隊の中では、詰め込まれたメサイア“グレイファントム”達が目覚めようとしていた。 「なんてザマよ!」 モニターやスクリーン、そして計器類の光が走るコクピットの中でそう喚いたのは、ステラだ。 本国へ戻った途端、ハワイでメサイアごと輸送艦に押し込められた彼女もまた、他の乗組員や騎士同様、数週間ぶりになる明日の上陸を楽しみにしていた矢先だった。 この騒ぎでは上陸はお預けだろう。 「こちらステラ・コールマン!ハッチ開けてっ!」 「こちら発艦司令所だ!メサイア使用許可は下りていない!」 「このままフネごと一緒に沈めっていうのっ!?」 「―――今、許可入った!」 直立不動の体勢で搭載されているグレイファントムの頭上でハッチが開かれる。 油圧でゆっくりと開く仕組みのハッチは、まるで亀の歩みさながらに遅く、たまらずステラは――― 「邪魔よっ!」 ベキィッ!! グレイファントムの左腕でハッチを殴り飛ばしてしまった。 「こらっ、ステラっ!」 ハッチが海面に落下する音を聞いたイルマが怒鳴る。 「あーあっ!あなたこれ、給料から天引きされるわよ!?」 「恐いこと言わないでよっ!必要な措置でしょ!?こちらステラ、緊急発進のため、すべての発進シークエンスを省略するっ!」 「ステラっ!始末書は書けよ!?」 発艦司令所の士官もステラに怒鳴った。 「発艦司令所よりグレイファントム全騎。ハッチ解放次第、自力浮揚開始許可!」 「サンクスっ!」 重力力場の理論を用いた一種のブースターを吹かしながら、グレイファントムが甲板上に出る。 甲板上に設置されていたウェポンラックが開き、ステラはそこから90ミリ速射砲を引き出した。 「敵はどこっ!?」 すでに対空砲が全艦から盛大に打ち上げられている。 「右っ!」 「右?」 ピーッ! ステラは右を振り向き様、コクピットに響いた接触警報の意味を即座に悟ることが出来た。 スクリーン一杯に、炎上しながら迫ってくるSu-30が映し出されていたのだ。 速射砲で撃墜するヒマはない。 「うそぉぉぉっ!」 ドンッ! 鼓膜がどうにかなりそうな爆発音と、シェーカーの中に放り込まれたような衝撃がステラ達を襲う。 とっさに構えたシールドにSu-30の体当たりをまともに喰らったステラ騎は、一度海面まではじき飛ばされた。 そのまま落下しなかったのは、イマラのブースターコントロールが絶妙だったからとしか言い様がない。 「な、なんてことしてくれるのよぉっ!」 ステラは騎体を甲板に再び降ろすと、辺りを見回した。 「い、一体、何がどうなって―――?」 グレイファントムの目から見たラピス島基地は酷い有様だ。 滑走路は爆弾で穴だらけで、車が何台かひっくり返っていた。 青い空も、今では黒い煙に覆われている。 そんな中、ステラ達の輸送艦の間近では、爆撃をまともに喰らい、真っ二つにへし折られた別な輸送艦が、舳先を天に向けて沈もうとしている。 さらにその隣。 もう一隻、輸送艦が激しく炎上していた。 艦の構造物のあちこちで走る爆発は、艦内に残っていた弾薬が激しく誘爆を繰り返している証拠だ。 最近の輸送艦は乗組員がほんの数名だとステラは誰かに聞いていた。 だから、乗組員が脱出出来ればいい。 そう思っていた。 だが――― ステラはモニターをズームさせてその輸送艦を見て青くなった。 炎上しているのは、物資輸送艦じゃない。 兵員輸送艦だ。 兵士達が炎と煙に巻かれ、甲板から次々と海に転がり落ちていく。 艦の横腹にまともに爆弾を受けたらしい。 もうもうと立ち上る煙の中、大きく抉られた艦体が見て取れる。 艦自体が受けた被害からして、艦内にいた兵士達は無事ではないはずだ。 「……神よ」 全身を炎に包まれ、まるで踊るように海に飛び込んだ兵士を見たステラは、思わず首から提げたロザリオを握りしめた。 その直後、輸送艦のボイラーに海水が侵入したんだろう、艦の後部、煙突の下あたりから今までで最大級の爆発が発生。 煙突を含む艦上部構造物が、甲板にいた兵士達を巻き込んで根こそぎ吹き飛んだ。 「……っ」 「ステラ」 呆然とするステラに、殺気だった声のイマラから通信が入る。 「敵空母の位置が判明したわ」 「どうするの?」 「今、この海域にある飛行艦は一隻だけ。インペリアルガーズの、“スズヤ”ってフネ」 「それが?」 「―――“スズヤ”は敵空母艦隊に殴り込むわ」 「私達は?」 「飛んで帰ってくる位のことは、このグレイファントムにも出来るでしょう?」 ハッチが開き、グレイファントム達が次々と甲板に出てくる。 「成る程?」 その光景を見たステラは、楽しそうにコントロールユニットを握った。 「お手伝いくらいは、させてもらえそうね」
https://w.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/27.html
第三話 -四天王- Syriana-裕福層の多い中東の中でも、最近著しい発展を遂げている国家、その王子の住まう白銀の城に 四天王の部屋と名づけられた部屋がある。 今、中央に並べられた4つの机には、一名の欠員が出ている。 ( ゚д゚ )】「ギコがやられたようだな」 ???】「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……!」 ???】「元ニートの暗殺者ごときに負けるとは我ら四天王の面汚しよ」 ( ゚д゚ )】「安心しろ、空港で私が殺す」 ???】「ミルナ、油断するなよ」 ( ゚д゚ )】「ああ」プチッ ???】「ロマ、お前も用意しておけ」 ???】「ああ、わかっている」 前へ 戻る 次へ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/232.html
234 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 03 45 ID 77mkWa3K 『trahison』 それが先輩と遣って来た店の名前。仏蘭西料理のお店だ。 大通りには飲食店が立ち並ぶ激戦区があるが、ここはその中でも売り上げ上位にランクされるレストラ ンである。 飲食で軒を争うのであれば、味か値段に特化するしかない。 ここは前者を選んだようで、味は良いがかなり値が張る。 だが普通の高級レストランと違い、ラフな格好でも入店が可能だ。 大通りにも繁華街にも街のはずれにも、そしてタワーの上層階にも高級な店はある。差別化と集客の手 段として、服装に堅苦しいことは云わない方針のようだ。 ただし携帯は電源を切ることを要求される。 僕らが通されたのは予約席。 売り上げ上位のこの店はキャンセル待ちを除けば当日予約は難しい。 つまり、前日以前にキープしたということになるのだが―― 「僕が来なかったら、どうするつもりだったんですか?」 「来てくれますよ」 席に着いた甘粕櫻子は“笑顔で笑って”云い切った。 「クロくんはお姉ちゃん想いの良い子ですから」 「いや、姉想いだから身動きできない訳ですが」 鳴尾しろは夜間の外出を許さない。 男友達でもそうなのだ。況や女性との外食をや。 「でも、クロくんはここにいます。それだけが事実です」 それでも。と、甘粕櫻子は首を振る。 「すんなり来てくれるとは思わなかったですけどね」 「すんなり往かなかったら、どうするつもりだったんですか?」 溜息混じりに問うと、ニコ目の年長者は答えずにふふふと笑った。 ――好んで甘言をもって人にくらわし、而して陰かにこれを中傷して、辞色に露わさず およそ上の厚くする者、初めは則ちこれに親結し、威勢やや逼るに及んで、 すなわち計をもってこれを去る 老姦巨猾といえども、よくその術を逃るるものなし―― 甘粕櫻子を評した姉の言葉である。 散散な言種だが、事実の一端でもある。 いずれにせよ、僕にとっては端倪すべからざる人物であるのは間違いなかった。 「でも、ホント、今日はどうしたんですか?私、クロくんを誘うとき、電話の向こうから金切り声が響 いて来ると思っていたんですけどね」 「・・・・・」 僕は黙る。 話すべきだろうか。それとも、胸に秘めるべきだろうか。 「話して下さい。私も“貴方のお姉ちゃん”なんですから」 耳に届く空気の振動は柔らかい。 もともと『間を置く』ために先輩の誘いに乗ったのだ。 それも良いかもしれない。 僕は一呼吸置き、それから口を開いた。 僕が『今日を語っている』間に、彼女についても説明しておく。 甘粕櫻子。 大学生。 口に蜜あり、腹に剣ありと云われる外連たっぷりの性格。 厳しさとは裏腹に本質は甘い僕の姉とは逆で、甘さとは裏腹な厳しさを持つ人物。 愛読書は『羅織経』。また古流柔術・新衛(しんえい)流の大目録所持者でもある。 容貌は極上で、緩やかなウエーブの掛かった髪と、温和なニコ目が特徴。 背はやや高く、出るところは出ている。今日のように防寒重視の厚着をしていても、身体のラインがわ かる程に。 子供のころから抜群のプロポーションをしていて、成長の早い人間は、若年から発育しているものだと 知った相手でもある。 成績は極めて優秀。 頂点に立つことは無いが、なんでもそつ無くこなし、どの分野でも先頭集団にいるタイプ。 235 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 06 17 ID 77mkWa3K 人当たりは良いが根は辛辣で、かつ悪戯大好きと云う困った人でもある。 そんな性格のためだろう。 僕の姉――鳴尾しろとは、あまり仲がよくない。 正確には、しろ姉さんが彼女を嫌っているだけなのだが。 そして、どういうわけか僕を気に入っている。 それどころか、僕を弟だと云い張る。 「何で僕に目を掛けるんですか?」 以前、直裁的にそう尋ねた。 返って来たのは底の知れぬ笑顔と。 「理屈じゃないんですよ、そう云うの」 なんて言葉。 「そう感じたから、心のままに振舞った。唯、それだけのことです。クロくんのこと、一目見て弟にし たい、そう思ったんです」 だから、貴方は私の弟です。 破顔が常態の年長者はその時、そう云って僕を抱きしめた。 はぐらかされたのか、それとも本当にそんな理由なのか? それを知ることは終に無かったけれど、そのままの状態は今も続いている。 『今日』の説明を聞き終えた先輩は、悪戯っぽく「ふふふ」と笑った。 「鳴尾さんは相変わらず可愛らしい方ですね」 「可愛らしいって・・・、そういう云い方すると、姉さん怒りますよ?」 「構いませんよ?それはそれで面白いですし」 それよりも、と、にこやかな双眸がこちらを捉える。 「クロくんは、本当に鳴尾さんの機嫌を損ねた理由がわからないんですか?」 小首を傾げるように。 幼子を諭すように彼女は尋ねる。 「はい」と僕は頷いた。 ある程度の予測はつく。けれど、断定は出来ない。 「駄目ですよ?クロくんのそういう所は嫌いじゃありませんけど、美徳ではないです。ニブチンは他人 を傷つけますから」 「ニブチンですか」 「ニブチンですよ」 先輩の眉毛は笑顔のままハの字だ。 「まあ、鳴尾さんが怒ろうが悲しもうが私には関係ありませんけど、櫻子お姉ちゃんが相手のときも鈍 いのは一寸駄目です」 「はあ」 そうか。 僕は鈍いのか。 いや、うすうす知ってはいたけれど。 「なんにせよ、謝っておけばそれで解決するでしょう。鳴尾さんはそういう人ですから」 確かにそれが一番確実ではあるのだろうが、状況を把握せずに謝罪というのはどうかと思う。 「あの、結局、何でしろ姉さんは怒ったんでしょうか?」 「発端はクロくんの絵ですよ」 「僕の絵・・・ですか?」 「はい。クロくんの絵です」 彼女は笑顔で頷く。 そして唐突に、 「鳴尾さんは歴史家として成功しません。いえ、成功できません」 そう云った。 虚を突かれたのは僕だ。 姉さんの夢。 絵も。 武も。 書も。 総てを捨てて目指している夢。 それを否定された。 根拠を聞いたわけでもないのに。 それだけで、僕の心に波風が立った。 236 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 08 57 ID 77mkWa3K 「そんなに怖い顔をしないで下さい」 僕はハッとする。 気が付くと眉間に皺が寄っていた。 彼女を睨みつけていたのだ。 「あ、その・・・すみません」 無駄に威嚇してしまったか。 僕はうろたえる。 そんな後輩を見た甘粕櫻子は、口元に手を当ててくすくすと笑う。 「クロくんは本当に鳴尾さんが好きなんですね」 「――」 再びの沈黙。 血液が顔に集まる。 確かに僕は姉さんを・・・。 「否定しませんか。少し妬けますね。気に入りません」 笑顔のままほっぺたを引っ張られた。少し痛い。 「そ、そんなことより、何でしろ姉さんは成功しないと思うんですか?」 この際、怒らせた理由はどうでもいい。けれど、これだけは是が非でも聞いておかねばならない。 「・・・・」 先輩は手を離さず、じっと僕を見ている。 破顔のせいで瞳は見えないが、これはどういう表情なのだろう? 「誤魔化されてあげます」 手はほっぺたに残ったままに彼女はそう云った。 目の前には笑顔。 だけど多分、真顔。 「鳴尾さんは潔癖故に黒い部分が書けません。彼女の書いた本は読んだことがありますが、どこかもの 足りないのです。机上の空論を読むの感がありました。彼女の本には、思想的に偏りはありませんが、 明らかに深みが無い。それは考察が無いのでは無く、彼女の世界が欠如しているために起きた現象だと 判断しました」 彼女の指す姉の本とは『南面策方』と云う。 創業篇・守成篇の2部からなる手書きの一書。 発表するための論文ではなく、今自分の中にあるものを纏める為に記したもの。それをこの人は読んだ ということか。 「歴史は人類の生の結晶です。人の生き様を知るだけでは書けません。地理、風土、宗教、その他諸諸 の知識を持ち、その上でそれらを高次元に纏め上げる訳ですから、優れたバランス感覚が必要です。勿 論、どかが欠けた“出来損ない”な歴史書ならば、そこいらに幾らでも溢れていますけど、鳴尾さんが 目指しているのはそんなものでは無いのでしょう?けれど、このままでは“紛い物”は書けても、“本 物”は無理だと思います」 「黒い部分、ですか?けど姉は韓非子と君主論を熟読していますよ?」 「知ってます。でもそれは、“足りないモノ”を無意識に判っているからでは無いでしょうか?彼女が 王者でなく、覇者であった人を尊崇するのも、自らに無いものを持った人人だったからでしょう?けれ ど知識で補おうと、欠損は欠損。それが無い以上、物足りなさは消えません。だから鳴尾さんは、歴史 家としては2流、ないし3流で終わると思います」 僕は云い返さなかった。 その材料がなかった。 鳴尾しろは『白』故に。 その世界に『黒』が無い。 世界の欠損。 甘粕櫻子はそう評す。 それは真実を穿つ言葉の剣。 姉の描いた夢に突き刺さる言葉の棘だった。 ですが、と甘粕櫻子は続ける。 「鳴尾さんはある意味自分を弁えていますからね。その分、クロくんに期待してるんですよ?」 勿論、私も、と可愛らしく小首を傾げられて、僕は目を点にする。 どういう飛躍だろうか。 「期待って、何ですか?」 「だから、絵ですよ」 「え?」 「絵」 甘粕櫻子は頷く。 237 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 11 25 ID 77mkWa3K 「鳴尾さんや美大の先生の娘さんが褒めたもの――クロくんの絵です」 「そこに戻るんですか」 「はじめからその話ですよ?」 彼女はくすくすと笑う。 どうにもこの人には敵わない。 「Silurian Periodってお店、知ってますか?」 そして唐突に話を切り替える。 僕は訝しがりながらも、 「大通りからちょい離れたとこにある、水槽張りの喫茶店でしょう?店員が全員魔女だとか云う」 「ええ。そこです。その傍に、Ikonographieって云う画材屋さんがあるんですよ。知る人ぞ知るお店で すが、それ故に良品揃いです。絵を描く気があるのなら往ってみて下さい。私の紹介と云えば、格安で 買える筈ですから」 「・・・・」 確かに、もう一度絵は描くつもりだ。 五代絵里。 あの娘に約束をしたから。 前回のように見せて終わりではなく、譲渡と評価を前提とした絵を描かねばならない。 ならばそれ相応の道具は必要だろう。 「ありがとうございます、甘粕先輩」 「先輩じゃなくて、お姉ちゃんです」 彼女は首を左右させ、それから“笑顔で笑って”頷いてみせた。 「情けは人の為ならず。弟事なら、尚更です」 店を出ると、外気は一層冷え込んでいた。 今冬は例年よりも寒い。こんな中で立ち尽くしていたら、一時間と立たずに風邪を引きそうだ。 「うわー、寒いですね~。今日は特に酷いです」 甘粕櫻子はピッタリと僕に張り付く。腕を身体に廻し、密着される。 押し付けられる体の総てが、凄く柔らかい。 「先輩、今日はご馳走様でした」 「誘ったのは私ですからね、気にしないで良いですよ?」 「でも、高かったでしょう?」 「はい。高かったです」 臆面もなく笑顔で云う。こういうところは彼女らしいと云えばらしい。 「クロくん」 「はい」 「お願いがみっつあります。良いですか?」 「内容によります。先輩は平気で無茶云う時がありますから」 僕の言葉が聞こえているのかいないのか。 先輩は「はい」と自分の携帯を僕に渡した。 「なんですか?」 「写真撮りましょう?クロくん、それで私たちを撮って下さい」 これが1つ目だろうか。 僕は手を伸ばして自分達を捉える。 瞬間。 彼女は殊更僕に抱きついた。仲の良い姉弟か、恋人同士がするように。 僕は引きつったような照れたような表情でシャッターを切っていた。 対する先輩は上機嫌に蕩けている。 「えへへ。待ち受けにします」 「やめて下さい」 本当に。 「で、2つ目はなんですか?」 携帯を返しながら問う。 彼女はピッピと器用に片手で操作しながら僕を見上げた。 「“櫻子お姉ちゃん大好き♪”って云って下さい」 「・・・・・」 「“櫻子お姉ちゃん大好き♪”って云って下さい」 「・・・・・」 「“櫻子お姉ちゃん大好き♪”って云って下さい」 「聞こえてますよ」 238 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 14 14 ID 77mkWa3K 「じゃあ、サンハイ」 「勘弁してください。しろ姉さん、自分以外を“お姉ちゃん”て呼ぶと、凄く怒るんです」 僕が彼女に弟宣言された日、姉さんは甘粕家へ怒鳴り込みに往った程に。 「でも私は嬉しいですよ?」 「いや、あの、」 「高かったなぁ、仏蘭西料理」 「・・・・・・」 この人の愛読書は羅織経。 それは『無実の人間を咎人に仕立て上げる為の手順』が記された本。 ちなみにこの人の座右の銘は、 『薄情・不人情の道、忘るることなかれ。これをかえって人の喜ぶように行うを智と云う』 で、ある。 逆らえるはずも無い。 「サンハイ♪」 笑顔で促された僕は、搾り出すように、 「さ、櫻子お姉ちゃん、大、好き・・・・」 「はい。よく云えました。良いコ良いコ」 上機嫌で僕の頭を撫でる自称・姉。 余程嬉しかったのだろう。 笑顔がより笑顔になり、頬も真っ赤に染まっている。 他方の僕は肩を落として続きを振った。 「・・・で、みっつめは何ですか?」 「元気ないですねぇ、クロくん」 「・・・・」 僕は頭を抱える。鬼だ、この人。 しかし不意に甘粕櫻子は僕から距離をとる。 腰に自身の両手を廻して後輩を見上げる。 それは、今日見たどの笑顔とも違う、不思議な表情だった。 彼女はその顔のまま、ゆっくりと口を開いた。 「今度また、お姉ちゃんとデートして下さい」 ※※※ 家の前まで来ると、更に寒く、そして夜は濃い。 すぐに家に入らないと身体を壊すかと思われた程だ。 その中に、人影がある。 橋の袂に立つ幽鬼のように。 その気配は儚く、酷く寂しげで。 「しろ姉さん」 「・・・・・」 玄関の前に立っていたのは、実姉。 「しろ姉さん、どうしたのさ、こんなところで」 僕は近づく。 すると。 パンッ! 高い音が響く。 それは僕の頬から。 そして姉の掌から鳴らされたものだった。 驚いた。 驚いたのは叩かれたからではない。 その表情と、手の冷たさに。 「姉さん・・・」 「莫迦」 怒っている。 それは判った。でもそれだけではない。 「こんな時間まで、私に無断で外出するなんて」 「ごめん」 間を置く。 239 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 17 10 ID 77mkWa3K そのために甘粕先輩と外にあったけれど。 それは姉の怒りを買い、かえって不要な心配をさせたようだ。 姉の表情。 そこにあるのは傷悲。 そして。 「ごめん。姉さん」 僕は改めて頭を下げ、そんな弟を姉は抱きしめる。 「――しろ姉さん・・・!」 この感覚は。 「いつからここにいた!?」 肉親の身体は、氷のように冷たくなっている。 恐らく表面だけではない。芯から冷え切っているはずだ。 「・・・クロが出て往ってから、すぐ」 僕がのうのうと暖かいレストランで食事をしていた時から。 この人は何時間もこうしていたのか。 「クロが、私に断りも無しに外に出るなんてありえないと思ってた。すぐに戻ってくると思ってた。だ から待っていた」 「ごめん」 それしか云うべき言葉が無い。 「・・・・・・」 姉は抱擁を強めた。 伝わってくるものは何だろう。 怒り。 安堵。 憔悴。 そのどれでもあったろう。 「それで・・・何処へ往っていたの?」 姉は身体を離しながら云う。 抱擁は解いたが、僕の両肩には姉さんの手が乗っている。 「外でご飯を食べてきた」 「そう・・・」 弟の行動がわかり、取り敢えずホッとしたような表情。 肩に置かれた手は、心が緩むに合わせてそこから離れようとして。 離れようとして―― 「一人で、よね?」 ピタリと止まった。 「・・・・・」 どう答えるべきか。 嘘か。 真か。 『甘粕櫻子』 姉の嫌っている自称の義姉。 あれと共に在ったと云って、納得してくれるだろうか。許してくれるだろうか。 「どうなの、クロ?」 しろ姉さんの手が肩の上を滑る。 外側にではなく、内側に。 両手が間隔を狭めて、僕の首にそっと触れた。 左右から、幽霊のように冷たい掌が首に宛がわれた。 すぐには言葉がでなかった。 出来るならば嘘は吐きたくない。 けれど―― 「答えて?」 親指が。 両の親指が、僕の喉の中央に触れる。 否。 『押し込まれ』た。 「ね、姉さん。苦しいんだけど」 「答えなさい。一人だったの?誰かといたの?」 痛い。 240 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 19 48 ID 77mkWa3K それに、苦しい。 気道が制限され、酸素の供給が滞る。 「姉さん、息、息が出来ない・・・!」 「どっちなの?一人だったの?一人よね?一人に決まってるわよね?クロは私を置いて誰かと遊びに往 くなんてことはしないわよね?」 ぎりぎりと。 親指が喉に食い込む。口の奥に血の味が滲んだ。 姉さんの目。 寂しさに押し潰されたみたいに、暗くて冷たい。 多分、この人には“絞めている”という自覚は無いはずだ。 唯、力が籠もっているだけ。 でも、それが総て。 「ご・・・ッ・・・フ・・・」 咳まじりの空気が漏れて往く。 「一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね? 一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?一人よね?」 駄目だ。 云えない。 云える訳が無い。 僕は姉の問う「一人」と云う言葉に頷いていた。 「――そう・・・」 冷たい手は喉元を離れ、新鮮な酸素が肺に届く。 「そう、よね。クロが私よりも誰かといる時間を選ぶなんてありえないものね」 目はどこかを彷徨いながら、独り言のように呟く。 凛とした姿ではなく、揺らぎを伴なうあやかしのように。 「でもクロ。勝手に出歩くなんて、もう駄目よ?」 「う、うん。ごめん、しろ姉さん」 姉は「仕方ないわね」と云って、僕を抱きしめる。 『一人』 その嘘に安心したのか。 鳴尾しろの瞳はいつものそれに戻って往く。 「しろ姉さん、家に入ろうよ。風邪ひくよ?」 「ええ。そうね。でも、もう少しこのままで」 抱擁を続ける姉は鼻声でそう云った。 本当はすぐにでも家の中に入れるべきなのだろうけど、身体が動かなかったのだ。 僕は姉さんに嘘を吐いた。 その酬いで、罰が当たらなければ良いのだけれど。 結論から云えば―― 姉は結局風邪を引いた。 微熱を出し、蒲団の住人となった。 「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」 本気でそう思っているのかは甚だ疑問だが、体調不良の原因を「弛んでいるから」と判断したようで、 その意味で彼女は落ち込んでいる。 僕のせいで身体を壊したのに、弟を責める素振りはまるで無い。 「しろ姉さん、本当に大丈夫?」 「ええ。問題ないわ」 蒲団に横たわる肉親は、赤い顔でそんな風に返すが、ちっとも大丈夫そうには見えない。 付きっ切りの看病は「クロにうつるから駄目」と断られた。 だけど顔を見せないと拗ねるので、何度も何度も部屋へ来た。自室にいてもひっきりなしにメールが届 くので、傍にいる様な感覚も抜けない。が、そのくらいは手間ではないのだから、勿論不満は無い。 「じゃあ僕は往って来るけど、しろ姉さんはちゃんと寝てるんだよ?」 「子ども扱いしなくて良いわ。クロこそ気をつけて往きなさい」 「なんか買ってくる?」 「平気。それより、本当に一人で出掛けるのよね?」 僕は頷く。 昨日と違って、それは本当の事。 これから、もう一人の姉を自称する人から教えられた画材店に買い物に往くのだ。 241 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 22 33 ID 77mkWa3K 基本的に姉さんは『往き先を告げ』かつ『単独ないし男友達と出掛ける』ならば、遅くならない限り怒 ることはない。 昨日は絵里ちゃんの件で機嫌を損ねていた上に無断で門限を破ったので、“あんなこと”になったけれ ど。 僕は首をさする。 朝見た鏡には、鬱血した痕がうっすらと残っていた。 これは、僕自身の為した咎だ。姉さんは悪くない。 「どうしたの?クロ」 僕がいつもとは違う表情をしたせいだろう。 蒲団から顔を出す姉は、心配そうに弟を見上げた。 「いや、何でもないよ。しろ姉さん、早く良くなってね」 僕はそう云って立ち上がった。 復調して貰いたい。 それはまぎれもない事実。 その原因を招いたのは、僕なのに。 「ごめんね、しろ姉さん」 その呟きは届いていなかった。 赤い顔の肉親はそれでも、 「いってらっしゃい」 なんて微笑んでいて。 ※※※ 画材屋はすぐに見つかった。 僕が件の喫茶店を見知っていたから、それほど迷うことはなかったが、教えられていなかったらこうす んなりこれたかどうか。 そう考えさせるほど、地理的には不利でマイナーだ。 だけど広い店内にはまばらにお客が入っている。“知る人ぞ知る”だけあって、判る人は来るらしい。 適当に見て廻ると、なるほど、確かに良品揃いの様だ。高価で、高品質な画材が多い。 僕は早速財布と相談する。 家の小遣いは同年代のそれと比べて多い方ではない。少ないとは云わないが、無計画に使える訳ではな いのだ。 父親等は月月の小遣いが5千円しか与えられていないので、真剣(賭け将棋)で10倍に増やして遊行 費に充てている。それに比べれば遥かにマシだけど、姉はアルバイトを許してくれないので、矢張り楽 とは云い難い。 だけど、と僕は思う。 今度の絵は本気で描かねばならない。 涙まで流して認めてくれたあの娘に、報いる絵を描かねばならないのだ。その為には道具の妥協は出来 ない。 僕は懐具合の寂しさを振り切って、予算が許すであろう限りの良品を選び、会計へ持って往く。 個人経営の店だろうから、レジのおじさんが店主なのだろう。 彼は鋭い眼光でじろりとこちらを見つめた。 「ほんとにこれでいいのか?」 「はい。良い物を使いたいので」 「ふーん。まあ良いけどな、こっちも商売だし」 値段を提示される。 (むぅ・・・) 予想していたとはいえ、矢張り高い。 銀行からなけなしの貯金も降ろしてきたのだけれど、表示された値段は僕の予算を吹き飛ばすには充分 過ぎる。 (まずいなあ、財布の中、2円くらいしか残らないや) このままでは次の小遣いまで身動きが出来なくなる。 それは困る。しろ姉さんに、果物を買って帰ろうと思っていたのに。 金が無いと分かったのだろう。 おじさんは勝ち誇ったような顔で、 「おやおや?どうしたい?」 なんて笑った。 高いところから人を見下すような瞳だ。 別にこの人にどう思われようと構わないが、画材以外手ぶらで帰るつもりはない。 242 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 27 41 ID 77mkWa3K どうにかならないものか? 僕は手を拱き―― (そうだ) 笑顔の美人を想起する。 「あの」 「んー?やっぱり止めるのか?困るんだよねぇ、レジ打ってからだとさぁ」 おじさんは「ホレ見ろ」といわんばかりの表情。 「いえ。そうじゃなくて。ここへは、甘粕先輩の紹介できたんですけど」 「ぁ、ぁまかす?」 小莫迦にする様な笑みを浮かべていたおじさんの顔が引きつった。 「ど、どちらの甘粕さんで?」 「どちらのって、いつもニコニコしてる綺麗なお姉さんなんですけど、ご存知ありませんか?」 「や、やっぱりあの悪魔か!」 ひぃ!と、甲高い声が店に響き、幾人かのお客さんが驚いてレジを見つめた。 (悪魔・・・) 「それって甘粕先輩がですか?」 「あ、いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ!!!!!!悪魔なんてとんでもない!! 悪魔も羨む美人って云ったんですよ」 おじさんは気味の悪い笑顔で揉み手するが、表情とは裏腹に大量の汗が噴出している。 「それでお会計ですけど」 「も、勿論ただで差し上げます!!甘粕様のお知り合いからお金を取るなんて、とんでもない!!」 「た、ただ?」 この値段が? (凄い変わり様だ) 僕は目を丸くする。 サービスで済むような価格ではないのだが。 「いや、でも無料ってのはいくらなんでも・・・」 「で、では95%OFFで!ね!それで勘弁して下さい!あの方の知己からお金を取ったなんて知れた ら、私は、私は・・・・!!!」 「いや、でも」 ロハっていうのは・・・。 「お、お願いです!お願いです!引き下がってください!鉛筆もサービスで付けますから!」 笑顔なのに泣き声みたいな口調で、デッサン用の高価な鉛筆を袋詰めにしていくおじさん。 「・・・でも、本当に良いんですか?」 「も、勿論です。どうか甘粕様には宜しくお伝えください。え、えへへへへ・・・・」 彼はガクガクと震えている。 甘粕先輩、貴女一体、この人に何をしたんですか? 「じゃあ、それで買います」 僕は9割5分引きになった画材を購入して外に出る。 扉を閉めると背後からから、 「畜生っ!畜生ォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」 とかいう叫び声が響いて来たけど。 それは聞かないことにした。 ※※※ 僕の目の前。 そこには何も無い。 何の変哲も無い見慣れた部屋だけが視界の総て。 そしてその中に、四角く白い世界の果てがある。 ここは僕が自分を表現する場所。 弱さをぶつける場所だ。 あの娘。 五代絵里は“目の前にあるもの”を、あるがままに認められた。 だから、きっと彼女の描く絵は風景画か静物画だろうと思う。 目の前のものを“絵”として完成させるには、在るがままに描くか、ありもしないものでアレンジする しかない。 多分、僕にその能力は無い。 あるのは唯、“無きものを表現する”能力だけ。 243 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 30 32 ID 77mkWa3K ここに無い。 ここに無いから、それが描ける。 幻想を。 夢を。 或は絶望を。 心の世界を形に変える。 無から有へと。 唯、混沌を整理することだけ。 それだけが、鳴尾クロの表現だと思う。 僕は決して優秀に属する人間ではない。 表現や体現には、本来向かない人間だ。 弱さを。 脆さを。 前回はそれを“ここ”に具現化した。 今度は、そこに別のものを乗せる。 想いを。 強さを目指す過程を。 それを混ぜるのだ。 前回はそんな事を考えなかった。 それを顕すだけの道具がなかった。 でも今は、その意志と画材がある。 だから、迷いは無い。 白。 黒。 赤。 青。 心の赴くままに四角い世界を塗りつぶす。 ここには無い世界。 だから、調和は自分で決めて良い。 暖かさも寒さも。 矛盾も撞着も。 ここでは総てが許される。 唯それを、可視に還元するだけだ。 外は寒い。 もう夜中なのだろう。 だけど僕の手は止まらない。 思いは淡雪のように。 今この時を逃したら、儚く消えて戻らない。 回顧し、追憶に淡雪を追う力が僕には無い。 生命を削り、今、この瞬間だけに世界を作れるのだ。 それも弱さ。 それも欠点。 時間が流れ、より寒くなった頃。 世界の果てに、不可視だった心が体現される。 それは――1枚の絵の、完成だった。 「・・・・出来た」 性も根も尽き果てたとはこのことか。 僕はしりもちをつく。 だけど、それに見合う作品は描けたと思う。 前回の絵とは違う。 真剣な作品。 満ち足りた作品だ。 「ご苦労様」 凛。 そう評すべき振動の空気が届き。 同時に柔らかい何かが僕を覆う。 人の感触。 あの人の感触だ。 「しろ姉さん来てたんだ?」 244 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 32 47 ID 77mkWa3K また、気が付かなかった。 「私はいつでも貴方の傍にいる。そう云ったでしょう?」 病床についていた筈の肉親がそこに在る。 背後から肩に顎を乗せる姉の顔色は当然良くないが、笑顔は澄み、活力を感じさせる。 「身体は平気なの?」 「今は無粋なことは云わない」 コホコホと咽ながら、姉は抱擁を強めた。 暖かい。 それに、安心する。 「良い絵ね」 「そうかな?」 「うん、クロは絵が上手い」 偽りの世界を視界に、姉さんは微笑む。 「満足往くものは描けた?」 「うん。全部出せたと思う」 「そう」 僕の頭を撫でる。 本当に実弟を誇りにしているのだろう。 彼女の表情もまた、穏やかに満たされている。 「題名は何て?」 「いや。特には無いよ。そう云うの、苦手なんだ」 だからつけるつもりは無い。 僕は元元表現には向かないのだから。 そう、と姉は頷いた。 「ねえ、クロ」 「うん?」 姉さんは抱擁を強める。 245 :永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM :2007/12/15(土) 16 35 34 ID 77mkWa3K 背後から弟の身体を締め付けていた両の腕は、マフラーみたいに首に巻きついた。 「クロは」 僕は一瞬身を竦める。 この前の夜の感触を思い出したから。 「クロはこの絵、あの娘に渡すの?」 いつもの凛とした声。 だけど、何かが少し違う声。 僕は少し戸惑ったけれど。 「その為に描いたんだ」 「・・・・・」 きゅ。 首に巻かれた腕が、幽かに強張る。 「姉さん?」 「・・・・」 『絞まる』のか。 そう思った刹那―― するりと。 腕が解かれる。 温もりが離れて往く。 僕は自由になった身体を肉親に向けた。 姉は微笑んでいる。 でも、どこか寂しそうに。 「クロ」 「ん?」 「喜んで貰えると良いわね」 「うん」 僕は頷く。 姉さんは僕の頭を撫でて、 「もう寝なさい。少しでも身体を休めておかないと」 振り返らずに、暗い廊下に溶け込んで往く。 (しろ姉さんの背中、こんなに小さかったっけ?) 少し不安になった。 僕は姉が見えなくなるまで見送り、それから窓を開けた。 「寒・・・」 吹き込んでくる外気の冷たさ。 吐き出される息の白。 冬の日の出は遅い。 いまだ外は闇の中。 冷気はいずれ、雪を呼ぶ。 この不滅の黒の中に、永遠の白は降り注ぐ。 すぐに至るその時に。 (姉さん) 僕は一体、何を見るのだろう。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/609.html
Mr.0の使い魔 —エピソード・オブ・ハルケギニア— 第三話 「バン!」と勢い良く扉を開いた教室では、既に授業が始まっていた。 教壇に立つシュヴルーズは、いきなりの登場に一瞬驚きはしたが、一つ 咳払いすると厳しい目をルイズに向ける。 「ミス・ヴァリエール。授業に遅刻するとは何事ですか」 「すみません、ミセス・シュヴルーズ……」 しゅんとして謝罪するルイズだったが、ふと違和感を覚えた。今まで なら、こういう時は決まって嘲笑や冷笑があったのだが、今日はそれが ない。ちらりと室内を盗み見ると、生徒達は少し怯えた顔でルイズから 視線をそらしていた。正しくは、彼女の背後にいるクロコダイルから。 (昨日のアレが効いてるみたいね。いい気味だわ) ささやかな優越感に浸るルイズの事などつゆ知らず、シュヴルーズは 授業の内容を解説した。 「ミス・ヴァリエール、今は【錬金】の魔法を教えています。 ちょうど、私の魔法で石を真鍮に錬成したところですよ」 見れば、教卓の上には幾つかの小石と金属塊が載っている。双方を見 比べたクロコダイルは、なるほど、これが魔法によるものかと感心して いた。ルイズもしげしげと机の上を眺めている。 二人の反応に気を良くしたシュヴルーズは、微笑みを浮かべてルイズを 呼んだ。 「ミス・ヴァリエール。【錬金】のやり方は知っていますね?」 「あ、はい」 「では、今度はあなたに【錬金】を実演してもらいましょう」 その言葉に、教室の中がざわつき始めた。暫くして、キュルケが立ち 上がる。いつもは情熱が有り余っている彼女が、珍しく真っ青な顔をし ていた。 「あの、ミセス・シュヴルーズ」 「何です、ミス・ツェルプストー」 「ルイズにやらせるのは、危険です。やめて下さい」 「危険?」 怪訝な顔をするシュヴルーズだが、取り消すつもりはなさそうである。 これではだめだと、キュルケは説得の相手をルイズに変えた。 「お願い、ルイズ! やめて!」 ややあって、ルイズが呟く。 「……やります」 途端にざわめきが大きくなった。大慌てで机の下に潜り込む者、始祖 ブリミルに祈りを捧げる者、何とかルイズを引き止めようと試みる者、 様々である。 そんな彼ら彼女らに構わず、ルイズはつかつかと教卓に近寄った。 「心に錬金したい金属を、強く思い浮かべるのですよ」 シュヴルーズのアドバイスにこくりと頷いたルイズは、おもむろに杖 を振り上げる。 それまで頭を出していた生徒達が、揃って机の下に避難した。立って いるのは呪文を唱えているルイズと、隣のシュヴルーズ、入り口の扉に 寄りかかって様子を眺めているクロコダイルの三人。そして後方に群れ ている使い魔達。 その中で、クロコダイルはどうも嫌な予感がした。直前までの説得の 様子は鬼気迫るものだ。そして、詠唱を始めると全ての生徒が身を潜め、 顔を出そうとしない。 (こいつは、何かあるな……) 値踏みするような視線の先で、詠唱を終えたルイズが石ころをめがけ、 さっと杖を振り下ろす。 するとどうだろう、石ころが目も眩むばかりの光を放ち——。 「っ、【砂嵐(サーブルス)】!!」 クロコダイルは咄嗟に右腕を突き出した。放たれた砂嵐がルイズの前、 教卓の上を薙ぎ、光る小石を巻き上げる。暴風にのった小石は、開いた 窓から飛び出した。 僅かに遅れて、閃光、爆音、振動。 「うわっ!」 「きゃあ!」 口々に悲鳴が上がる中、パニックを起こした使い魔達が暴れ出した。 サラマンダーが火を噴き、マンティコアが窓を割り、巨大な蛇がカラス を飲み込む。阿鼻叫喚の地獄絵図であった。 さて、事の元凶、ルイズの反応だが。 「もう、砂が口に入ったじゃない!」 卒倒しそうなシュヴルーズも生徒からの苦情もほったらかしにして、 クロコダイルへの文句を優先していた。額に浮かんだ冷や汗を見るに、 嫌な現実から目を背けるための口実のようだ。 「何やってんだ、ゼロのルイズ!」 「だからやめろって言ったのに!」 「いつだって成功確率ゼロじゃないか!」 我慢の限界に達した生徒達は、クロコダイルへの恐怖もそっちのけで 口々にルイズを罵倒する。事ここに至って、クロコダイルはようやく主 が『ゼロ』の二つ名で呼ばれる理由を知った。 (ゼロってのはそういう意味か……まぁ、おれには関係ねェな) 知っただけで、何か特別な考えを持ったわけではないのだが。 幸い爆発自体は教室の外で起きたので、けが人が出るほどの惨事には 至らなかった。ただし、爆発のショックで暴走した使い魔が一部の机を 焼いたり窓ガラスを割ったりした為に、授業の継続は不可能となってし まったのだ。 何とか気を持ち直したシュヴルーズは授業を中断する旨を告げると、 少しふらつきながら医務室へと向かった。去り際に、主犯たるルイズが 後始末をする事、その際絶対に魔法を使わない事を言い渡して。 ルイズは朝食抜きの上に重労働を課せられ、疲労困憊であった。最初 はガラスの破片や粉砕・炭化した机の処理。次に毛や鱗や何かの粘液で 汚れた室内の拭き掃除。仕上げに倉庫から新たな机を運び終えた時には、 既に昼休みが始まっていた。 「それもこれも、あいつが手伝わなかったせいよ……」 空腹で倒れそうになる体を壁で支えながら、ルイズは憤った。授業が 中断されると、クロコダイルは興味が失せたとばかりにどこかへ行って しまったのだ。男手があれば掃除は半分以下の時間で終わっただろうに。 そもそも使い魔が主人を放り出すなんて言語道断だ。 「クロコダイル……罰としてお昼抜きだわ」 拳を握り決意を固めたルイズは、とぼとぼと歩き出した。 ルイズが片付けを終える少し前。 クロコダイルは中庭を歩いていた。当分の間はこの学院が生活の拠点 となるのだから、最低でも建物周辺の地理状況、内部の構造を把握して おかねば話にならない。 授業で使った塔を見終わって次に向かう途中、クロコダイルは見物で 気づいた事を整理していた。 (規模の割に、狭いな) 塔の外から見た大きさと中の広さが一致しないのだ。どんな建物でも、 全体を支えるのに必要な柱の数、壁の厚みというものがある。建築には それらの数量に応じて材料、時間、手間がかかるから、普通は必要以上 を作るという事はしない。従って、外見と用途がわかれば、それらに適 した構造を思い浮かべておおよその広さや部屋数を予想できる。 しかしこの学院の場合、壁がかなり分厚く作られていた。百人以上が 余裕で入る大きな教室と合わせて、部屋の総数を圧迫する原因になって いる。寮の部屋も個人で使うには随分広かった。それらもやはり分厚い 壁で仕切られており、全体で見るとどうにもバランスが悪い印象を受け るのだ。 なぜもっと壁を薄く、部屋を多く作り、学生を集める事をしないのか。 個室の大きさは貴族だから配慮していると考えても、校舎全てを頑丈な、 砲弾すら弾きそうな構造にする必要はない。これではまるで——。 「砦か、要塞か」 ぽつりと呟いた自分の言葉で、クロコダイルはピンと来た。この学院 の建造目的が学業の為ではなく、何かを守る拠点として、だとすれば。 魔法の教育を名目にしておけば、各地のメイジを教師として集める事 ができる。生徒は貴族、つまりメイジの家系なのだから、彼らも貴重な 予備戦力だ。あくまで予備であるから、余分に抱え込まずともよい。広 い個室も、有事の際に派遣される正規軍の宿舎とする為なら納得がいく。 今の人数の倍くらいまでなら生活スペースに困る事はない。 また、平素からこれだけの数のメイジが常駐するのだから、そうそう 手出しする者もいないだろう。事前に内部の見取り図でもあれば別だが、 ない場合は偵察すら一苦労だ。都市に比べて人の出入りの監視が簡単な ために、発見されずに侵入・脱出するのは難しいのである。 (そうだとすると、何かしらの“お宝”があるかもしれんな) かつての世界で培った経験が、クロコダイルに半ば確信に近い推測を させていた。こういう強固な構造の拠点は、その高いコストから防衛の 要所や重要物の保管場所に限定して構築されるのが常だ。 このトリステイン魔法学院のすぐ近くには、この国の王都が存在する。 守るべきものが王都であるのは明白だが、おそらくそれだけではない。 もう一つの、貴重品の保管庫としての機能も持たされている筈。 「あそこか」 獲物を求めてギラつく瞳が、一際大きな本塔に向いた。学院の配置で、 あの塔が最も外から遠い位置にある。距離の差はそのまま攻撃精度の差 と考えても相違ない。同じ技量で遠近二カ所の対象を狙う場合、遠い方 への命中率が下がるのは当然である。つまり、最も攻撃を受けにくい。 他の塔と見比べても、中央の一本はより堅牢に作られているようだ。 時に例外はあるが、財宝などを保管する場合、多くの人間は一番安全だ と思える場所を選ぶ。 「ちょうどいい。食事の後で見物させてもらおう」 小声で呟くと、クロコダイルは本塔を目指した。同時に、今後もこの 学院を有効利用し続ける事を考えながら。 ...TO BE CONTINUED
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/290.html
――――ブリーフィング―――― 清水「操作とルールは覚えたか、一条」 遥「えと、まあ大体は」 清水「よし、なら後は実際に動かして覚えろ」 遥「わかった、やってみる!」 清水「一条は格闘のカットさえしてくれればいい。二人の相手は俺がする」 ♪ ♪ ♪ ヘーシェン「さて、ヘーシェンとヴィルティックというよーわからんコンビになったわけですが」 隆昭「遠距離戦に不安があるな」 ヘーシェン「冗談抜きで清水さんのブルショルがやっかいですね」 隆昭「弾幕がな……。でもヘーシェンは回避力に定評あるだろ?」 ヘーシェン「ええ、もちろんです。装甲は紙ですが」 隆昭「じゃあしばらく清水の相手を頼む」 ヘーシェン「……なるほど。 ヴァーストでかちゅ、それれいんれしょ」 隆昭「ああ、 バ ビ ブ だ」 ――――ブリーフィング終了。システム、戦闘モード起動します―――― 戦場に、それぞれの機体が舞い降りる。フィールドは市街地、時刻は夜だ。 ディスプレイに表示される、スタートまでのカウント。3、2、1……。 『バトル・スタート』 一条の迅雷を除く3機が、一斉に中央に向けてブーストした。 「え、えーと、“ぶーすとぼたん”ってどこ!?」 取り残された一条は見事にテンパっているが、そんなものは想定の範囲内だ。問題は自力で解決してもらうとして、今は2機を引き付けるだけ。 『シャッフル』 清水がスティックを押すと、コントローラーからアナウンスが流れると同時にディスプレイの隅にカードが出現した。種類は……ミサイル、ミサイル、バスターソード、アクセル、ストリーム。 カードを選択し、発動――――まずは牽制だ。 『アクセル、ミサイル、ミサイル!』 ブルーショルダーの肩にミサイルが装備され、機体の最大速度が上昇した。 回避のために小刻みにステップを織り交ぜて移動しつつ、射撃ボタンを長押し。チャージする事によって100mm多目的ミサイルが100mm超振動極熱ミサイルへと変貌を遂げる。 マルチロックして、発射。ヴィルティックとヘーシェンにミサイル襲い掛かる。 が、 『フレアー!』 『ディフェンス!』 読まれていた。ヘーシェンに向かったミサイルはフレアーによってその軌道を変え、ヴィルティックに向かったミサイルはディフェンスによって防がれる。初心者というのは……やはり嘘か。 だとしたら、おそらくはセオリー通りヴァースト狙いの戦い方をしてくるだろう。 ヴァーストは特殊なカードだ。引いてから10カウント後に発動可能になり、発動すると機体の能力が上昇し、モーションが変更される。 ……そこからさらに10カウント待てばエクステッド・ヴァーストが発動可能になるのだが、流石にそこまでの余裕はあるまい。 ヴァーストを使われれば低コスト機のブルーショルダーは手も足も出ないだろうが、幸い通常時のヴィルティックの性能は高コストの大型機にしてはそこまで高くない。ヘーシェンを落としてコストオーバーを狙いたいところだが―――― 『バスターソード 振動熱斬刀!』 清水が300cm超振動極熱刀を召喚して、ブルーショルダーが白亜の巨人に襲い掛かる。 ――――ヴァーストを発動されたら厄介だ、ヴィルティックから潰させてもらう。 ♪ ♪ ♪ 移動に、誘導を切るためのステップを織り交ぜながら、ブルショルがヴィルティックに殺到する。 ――――やっぱ俺狙いかよ! なら! 『デコイ、マイン!』 ギリギリのタイミングでデコイとマインのカードを同時使用。ブルーショルダーのターゲットサイトが強制的に機雷入りのダミーに変更される。 しかしそれは一足遅く、ブルショルの格闘は既にヴィルティックに対して誘導が掛かっていた。伸びの優秀な(リーチの長い)ブーストダッシュ格闘なのでステップでは回避が間に合わない。 「うお、やば――――」 「ライダーキック」 画面に割り込む白ウサギ。ブルショルを蹴り飛ばす。 「おれは、みかただ」 「ナイスカット!」 「ここは私に任せてください」 すぐさまブーストダッシュでダウン中のブルーショルダーとの距離を離す。なにやら「私この戦いが終わったら、マスターとにゃんにゃんするんですよ」という死亡フラグが聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう、うん。 とにもかくにも清水のブルショルはヘーシェンにお任せだ。 『シャッフル』 俺はヴァーストを引き当てるのに専念するとしよう。 ♪ ♪ ♪ ダウンしていたブルショルが起き上がった。ここから数秒間は無敵時間だ。相手の格闘のリーチ外へと機体を下げ、隆昭が設置した機雷入りダミーの付近へ。 『プットオン アーマード!』 カードの効果によって脚部と肩部に装甲が装着された。これでいくらかの攻撃は無効化する事が可能だ。 しかし何よりも頼もしいのは格闘攻撃が命中した場合、それを無効化した上で相手を怯ませる事ができるという事。これによって相手の大火力格闘攻撃――――300cm振動熱斬刀を封じる事ができる。 ブルーショルダーカスタム、通称ブルショルは射撃寄りの万能機だが、それだけではダメージソースが心許ないため、時には格闘を狙っていく必要もある。 つかず離れず、そういう立ち回りを要求される機体だ。 一方ヘーシェンは格闘寄りの万能機。射撃は支援と牽制に留め、カット耐性の高いコンボでダメージを稼ぐ機体で、装甲(=HP)の薄さもあって接近戦のリスクを減らすために闇討ちメインで立ち回るのが最も安定した戦い方になる。 そう、ブルショルとヘーシェンの相性はぶっちゃけあまり良くない。普通の機体なら問題にならない攻撃も、ヘーシェンにとっては致命傷になりうるからだ。それがたとえアーマー付きであっても。 さて、おそらく清水はセオリー通りアーマーを破壊しにかかってくるか、あるいは―――― クイックターン。ブルショルがヴィルティックへと踵を返す。 ――――ガン無視か。 『ライフル アンチマテリアル!』 銃口補整や誘導が掛かる赤ロックが可能な距離の短いヘーシェンだが、これの弾速ならば着地時の硬直さえ狙えば当たらない事もない。……射撃時に足が止まるのが難点だが。 乙女の誘いを無視するような輩には痛ーい罰を与えてやろうではないか。 ♪ ♪ ♪ 清水らが短いやりとりで腹を探り合っている頃、一条 遥は絶賛混乱中だった。 何が起こっているのか、わからない。 何をしていいのか、わからない。 なので一応皆がやっていたように右のスティックをカチリと押してみる。 『シャッフル』 「うおわ!? コントローラーが喋った!?」 素人っぽさ丸出しだ。 画面の隅で複数のカードが高速回転、5枚のカードが現れる。何やらこれを選択して武器を装備したり機体の性能を強化したりするらしい、さっき流し読みした説明書に書いてあった。 試しに弓の絵が描かれた赤いカードを選択してみる。 『クロスボウ!』 迅雷の手の中に、どこからともなく大きめのボウガンが現れた。 やる事は生身の神子同士の戦闘とあまり変わらないのか、と思いつつ今度は八角形の太ましい棒が描かれたカードを選択。 『金砕棒!』 どうやら“かなさいぼー”というらしい。今のは勉強になった。 遥か向こうで激戦が繰り広げられているにもかかわらず、壁の後ろに隠れて呑気にカードを選択して試し撃ちをしたり、適当に機体を動かす遥。 ……よし、操作方法は大体わかった! 意気揚々と機体を跳躍させ、壁の向こう側を見る。が、 ――――なんだあれわ。 縦横無尽、自由自在に跳び、駆けるロボット達と無言でコントローラーをガチャガチャやる3人。あまりに別次元すぎて一瞬アホの子になってしまった。 動きが目で追えない。みんな何をやっているのだろう。ダンス? などとボケている暇は無かった。前方からアラート。ヴィルティックからの攻撃だ。 「ちょっ……危ない!」 命中するギリギリのところをステップで回避、距離を離すべく180゚方向転換してブーストダッシュ。 「おお、避けた」 隆昭が呟いた。 意外なのは自分もだが、わざわざ声に出さなくても……。 「初めてなのに不意打ちなんて!」 「戦場では空気である事のほうが罪なんだよ、先輩!」 接近してきたヴィルティックにボウガンを撃つが、白亜の巨人はそれを苦もなく躱し、迅雷に肉薄する。 「来るなー! 来るなー!」 「大丈夫だ、ちょっとくすぐったいけど痛みは一瞬だから!」 「どっち!?」なんてツッコミを入れている余裕はない。ヴィルティックの腹部に巨大な砲がドッキング。 『エルシュトリームクラァッシュ!』 ……名前からしてなんかヤバそうだ。 バチバチと電光を走らせながら、蕾が花開くように砲の先端が展開していく。 なんとか逃げようとするが、駄目だ。ぴったりくっついて離れない。 「さあ、おまえの罪を数えろ」 「何言ってるのこの子!?」 「ああ、タカ坊は時々厨……う わ ら ば !」 説明しようとしたヘーシェンと隆昭が、マルチロックしたミサイルの直撃を喰らった。ヘーシェンはアーマーの耐久値が減り、ヴィルティックはひるんだ事によってエルシュトリームクラッシュの発射体勢が解除。初めてのまともなダメージであった。 「おいパンツうさぎ、今のはネタだって事くらいお前ならわかるだろ。つか厨二病言うな。あとタカ坊ってなんだ」 そ し て ま さ か の 仲 間 割 れ 。 「ふふっ、ヘタレって事ですよ。ヘ・タ・レ」 なんて妖艶な笑みを見せながらチラリとスカートを上げて白い腿をみせるウサギ。パンツはギリギリ見えない……ん? 今チラっと見えたかな? 気になる、凄く気になる。これは戦闘どころではない。 「って、Oh……」 気になるのは自分とタカぼ……隆昭だけではないらしい。遥の視線の先では―――― 遥の視線の先では、清水が震えていた。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前